司法は虚構の通販規制許すな

2010年01月15日 13:56

2010年01月15日 13:56

 昨年12月24日、ネット販売で扱える医薬品を省令で大幅に制限するのは違憲などとして、ケンコーコムとウェルネットが東京地方裁判所に提起していた行政訴訟が結審した。昨年6月の改正「薬事法」施行に伴い導入された医薬品通販への規制強化は、"対面"でなければ副作用リスクを伴う医薬品の販売で安全性を担保できないという理由によるものだが、検討段階から様々な問題が指摘され、規制導入後も現場の混乱を招いているのが実情だ。様々な矛盾がはらんだ医薬品通販規制をこのまま放置しておけば、ネット販売等の事業者や消費者の不利益が拡大する。司法には、実態を踏まえた正当な判断を期待したい。
 
 まず、今回の医薬品通販規制で考えなければならないのは、一体誰のための規制なのかということだろう。薬局・薬店等の薬業関係者や厚労省は、薬剤師等の専門家が直接消費者に情報提供を行う"対面の原則"が担保できない通販・ネット販売は危険とし、規制導入を押し切った。いわば消費者保護を名目にしたものだが、そもそも医薬品通販が本当に危険なのかは甚だ疑わしい。
 
 実際、医薬品通販は、これまで厚労省が認めてきたものであり、通販という販売手法に起因した健康被害等の事例も報告されていない。予見的見地から医薬品通販を規制するにしても、どのような形で通販に起因した健康被害等が発生する恐れがあるのかも不明確なままだ。検討会などでは、規制推進派の委員からネット販売を危険視する意見が出されたが、実際の医薬品通販サイトでの安全確保策を十分に検証しているわけでもない。医薬品通販規制を巡っては、法的な規制論拠や検討作業の進め方など、厚労省の対応の問題が数多く指摘されており、十分に議論し尽くさないまま規制が強化されたというのが実情だ。
 
 さらに規制強化後の状況を見ても、ドラッグストア等の店頭で情報提供が十分に行われていないという事例が幾つも報告されている。"対面"でなければ医薬品販売の安全性が確保できないとしておきながら、リアルの売場でペレーションが徹底されていない実態を考えても、"対面"の原則を論拠にネット販売を規制することはおかしいだろう。
 
 果たして、今回の医薬品通販規制は、一体誰のためのものなのか。ネットで扱える医薬品を大幅に制限された販売事業者は日々売り上げが減少し続け、離島居住者や身体障害者などの利便性も損なわれている。規制導入を推進してきたドラッグストア等に恩恵があるようにも見えるが、将来的にネット販売への対応を考えざるを得なくなるのは必至で、その際に医薬品通販規制は足かせになるはずだ。そう考えると、今回の医薬品通販規制は、誰にも実質的なメリットはないと言わざるを得まい。
 
 法的な規制論拠が脆弱で検討作業の進め方に問題があり、現場の混乱も招いている医薬品通販規制は早急に見直す必要がある。ケンコーコム等が訴えた行政訴訟の判決は3月末に下されるが、"対面"の虚構を打ち崩し、真に事業者と消費者のためになる医薬品販売制度作りにつながる司法判断が望まれる。


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