バイブル商法を撲滅せよ
健康食品通販のキトサンコーワと、その関連本を出版していた現代書林の薬事法違反事件の公判が始まった。事件は、書籍を介し健食を販促する、いわゆる"バイブル商法"を巡るもの。無論、人の心理につけ込んで利益を上げるような販売行為が許されるわけもなく、事業者に法的、社会的制裁が下るのは当然のことだ。ただ、健全な販売を心がける事業者であっても市場の競争激化の中で広告表現がエスカレートしていくことがある。最近でもバイブル商法ではないが、これに類するような販売行為はみられる。事業者は広告表現に細心の注意を払う必要がある。
現代書林は2001年、キトサンコーワから委託される形で書籍を制作。書籍中で「ガンが治る」などとうたい、キトサンコーワはこれを商品の販促に利用していた。
常識的に考えて「ガンが治る」というのは荒唐無稽な話だが、疾病を抱える本人や家族はこうした話に飛びついてしまうこともある。逮捕当時、神奈川県警も「藁にもすがる思いの人間が飛びつく内容で非常に悪質」と怒りを露わにしていたが、警察がバイブル商法に厳しい姿勢で臨むという強いメッセージを発信したことは評価できるものだろう。
一方で、事件を巡っては警察や検察の対応に疑問が残る部分もある。県警は当初、書籍出版が薬事法上の「販売ほう助」にあたるとして現代書林関係者を逮捕。だが、起訴事実では書店での販売が「広告」にあたると嫌疑を切り替えてきたためだ。
理由は、当初の嫌疑では公判を維持できないと考えたためとみられる。現代書林は03年の健康増進法改正でバイブル本に関する留意事項が加わると編集方針を変更。社内規定を設け、連絡先が掲載されたページを切り取るなどして対応した。それでも、キトサンコーワがその後も販促物として使っていたため「販売ほう助」に問われた。ただ、出版自体は10年近く前の話。現代書林の主体的な関与を立証するのは難しく、逮捕後に、09年以降、書店で8冊を陳列・販売した行為を「広告」とみなした。
事業者は摘発を受けることで社会的信用を失い、事業存続すら危ぶまれる事態に追い込まれる。当初から社会的制裁を狙っていたのであれば、薬事法を運用する立場としてあってはならないことであり、その職掌を超えるものだろう。県警にはより慎重な捜査を求めたい。
とはいえ、キトサンコーワの行為を知らなかったとしても、現代書林には出版社として責任の一端があることは免れない。嫌疑を変えてでも追及しようとする警察、検察の姿勢には、バイブル商法の撲滅を図ろうとする強い意志も感じる。
最近では書籍に替わり、漫画などより分かりやすい形で健食の機能の説明を試みる事業者も増えてきた。多くは成分や健食素材の機能性に留めることで法の網を掻い潜っている。ただ、商品とセットで展開すれば、広告と受け取られても仕方がないもの。そうしたバイブルまがいの販売行為にもメスが入る可能性がある。健全な市場発展のためにも、事業者は今回の事件を戒めに、バイブル商法、これに類する販売行為に自浄作用を働かせるべきだ。
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現代書林は2001年、キトサンコーワから委託される形で書籍を制作。書籍中で「ガンが治る」などとうたい、キトサンコーワはこれを商品の販促に利用していた。
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