「権威」の利用には節度を
2014年03月13日 10:02
2014年03月13日 10:02
企業の薬事法違反事件に絡み、神奈川県警が商品の効能を紹介する記事を書いた教授を書類送検した。県警が学術界の萎縮効果を狙ったのならばやり過ぎであると感じる面もある。ただ、健康食品の新たな機能性表示制度をにらみ更なる機能性研究が欠かせない中、企業と学識経験者の付き合い方には節度も必要だ。
神奈川県警は2月、"がん細胞が死滅する"などと標ぼうし、プロポリスを含有する健康食品を通販していたシャブロンの社長を薬事法違反で逮捕した。これに絡み、3月にはプロポリスの効能を紹介する記事を医療系無料雑誌や商品パンフレットに書いた教授を書類送検した。
県警による薬事法違反の摘発には意図があると考えるのが普通だ。11年にもキトサンコーワの薬事法違反事件に絡み、関連本を出版していた現代書林の元社長を、販売ほう助罪を初適用して逮捕した。販売会社を取り巻く周辺事業者への抑止効果を狙ったのだろうが、起訴段階では嫌疑が薬事法違反(未承認医薬品の広告の禁止)に直され、判決も無罪。だが、ほう助罪の初適用や逮捕自体のインパクトを伝える報道が、周辺事業者に注意を促す効果はあった。
今回も、県警は教授の書類送検を匿名で発表したが、一般紙では実名で報道されている。多数の著書を持ち、メディア露出もある著名な学者であり、学術界に与える衝撃は大きい。なぜ書類送検で済ませたかは分からないが、実名報道を見越し、インパクトを狙ったとの見方もある。この事件を機に、健食から距離を置く学識経験者が増えるかもしれない。
とはいえ、企業も学識経験者との付き合い方には注意が必要だろう。中には、その関係が怪しげなものもあるためだ。
企業が共同研究などで関係する教授の出演する番組のスポンサーになったり、寄附講座を提供するケースはたまにある。ある教授は、健食の研究会発起人としてたびたび名前が挙がるが、健食通販大手の資金提供を受け、寄附講座も開設している。何らかの便宜供与があるとすれば、その研究成果も適正な環境下で得られた結果と判断されにくいだろう。
昨年10月には、日本臨床栄養学会で要職にある教授が、サン・クロレラとの共同研究の成果を示す広告に登場したこともあった。これを受けて適格消費者団体の京都消費者契約ネットワークが教授に抗議。サン・クロレラの折込チラシを巡り、差止請求訴訟に発展している。この教授も別の健食通販大手の研究活動に参加している有名な教授だった。
健食は、複合成分である場合が多く、未知の部分も多い。製品の発売後も継続的な研究が必要だ。健食の新たな表示制度の下、企業は自らの責任で機能性の根拠となる科学的根拠も蓄積していかなければならない。そこには、大学の研究機関や学識経験者の協力は欠かせないものだ。
だが、新制度の下で客観的な機能性の評価が求められる中、企業は"権威"の扱いに注意しなければならない。消費者が、学識経験者の推薦など権威を拠り所とする面もあるが、利益相反により研究の倫理性が損なわれれば、企業の信頼を揺るがすリスクにもなる。