健食産業、自ら「創る」意識を
2014年07月03日 11:32
2014年07月03日 11:32
健康食品の新たな機能性表示を巡り、厚生労働省が身体の部位に言及する表示など「構造機能表示」を認める意向を示した。これまで薬事法規制から機能を表現することが叶わなかった健食業界にとって、その「権利」を掴むことができたのは、新制度の検討の中で最も大きな成果と言える。ただ、「権利」を得るには「義務」を果たす必要があることを事業者は忘れてはならない。
新制度の導入により、行政は、科学的根拠が不明確な"いわゆる健康食品"との区別を明確にしようと考えている。そのため、新制度では、健食の安全性確保や機能性評価に一定のハードルを設けている。ただ、その条件には、機能性に関する研究計画の事前登録に使う「UMIN臨床試験登録システム」の活用や、関連文献の総合的な評価を行う「システマティック・レビュー」による評価など、健食企業にとってなじみの薄いものも少なくない。
国際的にも、機能性を適切に、客観的に評価するには、医薬品評価に用いるような統計的手法、考えを参考にするしかないのは分かる。ただ、健食は医薬品と根本からその役割が異なる。利用目的も違えば、利用者の食生活など生活習慣によっても"効き方"は変わる。医薬品に近い評価を加える妥当性の判断は難しいが、医薬品の理論をそのまま持ち込むことは適当ではないだろう。
とはいえ、行政にとっても今回、「構造機能表示」の是非を巡る姿勢を軟化させたことは、大きな決断と言えるものだ。事業者もその譲歩の意味を理解し、科学的根拠や製造面で求められる要求に応えていく努力が必要だ。これまで長きに渡り健食があいまいな位置づけに置かれ、"鬼子"と言わしめてきたのは、なにも行政が一つの産業として認め、法的整備や産業振興に目を向けなかったことだけが原因ではないからだ。
新興の事業者の中には健食を"売れる商品"と捉え、健食を扱うにあたって当然持つべき知識や責任を製造元に丸投げし、売りが先行する企業もある。本業が別にある大手メーカーにとっても、自らの新規事業分野の開拓のみを目的に、健食産業の抱える課題や将来に関心が薄いところはある。業界団体が乱立し、一枚岩となれないのも互いの利益を優先してきた一つの表れ。どこか他力本願で市場の形成を誰かに任せてきたことが、健食産業の地位確立を遅らせていた一面はある。業界側にもその原因の一端はあったと言える。
今回、健食は機能性表示という長年の悲願の達成にあと少しのところまできている。しかし、これまでと同じ姿勢では、今後の市場の発展はありえない。健食の役割について企業と行政、消費者の間で共通の認識を形成し、法的整備を求めていくなど積み残しの課題はまだある。これら産業の存在意義は、新制度をきっかけに、科学的根拠や製品管理に真摯に取り組み、自らの手で獲得していくもの。健食産業が抱える大きなテーマに業界の一員として自ら取り組む姿勢を示さなければ、健食産業の地位を向上させていくことはできない。事業者は、健食産業がようやくその入口に立ったことを再認識する必要がある。