百貨店通販は時代の先取りを

2015年01月29日 17:00

2015年01月29日 17:00

日本における通販の歴史を振り返ると、百貨店が担ってきた役割の大きさが分かる。いまでこそ、ネット対応の遅れなどから後手に回ることの多い百貨店の通販だが、オムニチャネル時代の生き残りに向けては、他の小売りに先駆けて新しい価値を提供してきた強い百貨店の姿に期待したい。

 今年、高島屋の通販は第二次大戦後の再スタートから65年を迎えた。元々、同社が通販部門を開設したのは1899年で、遠方に住む顧客の利便性を考慮して発足した「地方係」が通販のスタート。昭和初期(1930年代)には通販事業を強化し、旧満州にもカタログを配布していた。第二次大戦中に通販事業は中断するが、51年に再開。その後、電話やテレビの普及に伴って71年には本格的なテレビ通販を初めて放映したほか、90年にはロバの会と協力して視聴覚障害者に向けたテープによる音声カタログ通販を開始するなど、抜群の知名度と信用力を武器にさまざまな通販チャネルを開拓し、多くの消費者にアプローチしてきた。

 同社に限らず、昨今は既存のカタログ顧客の高齢化などから百貨店の通販は苦戦。ネット販売チャネルも依然として得意の中元や歳暮といった儀礼ギフトへの依存度が高く、EC市場で成長が見込まれるファッション商材や食品宅配などの分野では、百貨店で成功しているケースはほとんどないのが現状と言える。

 ネット強化やオムニチャネル時代を見据えた動きとしては、12年6月に高島屋がファッションEC専業のセレクトスクエアを子会社化し、通販サイトのフロントやバックヤード業務のノウハウを吸収したほか、同社の属社長を高島屋本体のオムニ化推進の旗振り役に任命した。三越伊勢丹ホールディングスも13年4月に、日本トイザらスやジュピターショップチャンネルでEC部門を立ち上げた中島氏を招へいしてウェブ事業の強化を打ち出している。

 最近では、そごう・西武が昨年11月に誕生した商業施設、グランツリー武蔵小杉に小規模店を開設。小型店の品ぞろえを補完する目的で始めた「ご試着サービス」は、消費者が気になる商品をウェブ上で予約し、小型店に設置した専用フィッティングルームで試着できるようにした。また、大型店とライブ中継を結び、専用ルームのテレビ越しに商品を見ながら接客が受けられる「ライブショッピングサービス」も展開する。

 松屋銀座は、商業施設を商品の受け取り拠点として活用するウェブサービス「tabモール」にスタート時の昨年11月に参画した。松屋銀座3階に専用の受け取りカウンターと試着室を設け、婦人服や靴、バッグなどの取り寄せに対応。店頭で取り扱いのないブランドや商材にも対応することで品ぞろえの拡充と新客開拓につなげたい考えのようだ。

 オムニチャネル時代には、消費者に新しい価値を提供できない小売りの生き残りは難しくなる。古くから通販を展開する大手百貨店はカタログと店頭、通販サイトの各売り場で顧客年齢層が異なるなどの事情もあるだろうが、時代を先取りしてきた百貨店らしい"攻めの一手"に期待したい。

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