「健康食品JAS」騒動に学べ

2015年02月19日 10:44

2015年02月19日 10:44

食品の新たな機能性表示制度が始まろうとしているが、健康食品業界はいまだ一枚岩ではない。業界団体の乱立は今なお解決しない問題だが、一部の関係者のスタンドプレーが目立つのもこの業界の特徴だ。象徴的なのが「健康食品JAS」を巡る一連の報道が招いた混乱だろう。そこには、業界が長年抱えてきた問題の一端も垣間見える。

 「健食JAS」の問題は、農林水産省の補助事業から始まった。食品トレーサビリティシステム標準化推進協議会が2年間に渡り計約2000万円の補助金を交付され、"いわゆる健食"を含む食品表示のガイドラインを検討してきた。だが、業界紙「ヘルスライフビジネス」がJAS規格化に道筋をつけるものと報じたために混乱が広がった。報道を受けて農水省は業界紙に抗議。2月に行われた説明会では、農水省幹部が「報道ですごいものができると誤解した方に迷惑をかけた」と、先行報道の問題を指摘した。

 ただ、悪いのは業界紙だけだろうか。そもそも2年という歳月をかけ、2000万円もの費用を投じた事業に中身はあったか。説明会では、協議会がガイドで求める情報開示項目に「有用成分等の名称、含有量」「品質・衛生管理の方法」「消費者対応部門の連絡先」をあげた。多くは、現状の法規制の順守や、自主的な品質管理基準であるGMPをなぞるもの。出席者からは「中身がない」と、落胆の声も聞かれた。

 協議会は、2013年に調査事業を、昨年に検討会を設置してガイドを検討してきたという。調査では、国内外の視察や店頭商品の表示調査、企業の販促資料の確認を実施。海外視察は検討委員2人がアメリカ、ドイツ、韓国を視察。各国の表示サンプルや商品目録などを作成したという。検討会は昨年7月から5回開催。補助金はこれら表示サンプルの収集や海外視察、検討委員への謝金に消えた。

 それでも協議会は「3項目しかないが重要なもの。どう活用するか。各社ばらばらではいけない」と力説する。だが、一方の現実は、つくっても運用する主体がないということだ。3月のガイド公表で補助事業は終わり、ガイドの推進母体も「一緒にやってくれるところがあれば」と説明するにとどめる。助成した農水省、協議会の見通しの甘さはお粗末と言わざるを得ない。

 この2年間に健食業界は大きく動いた。安倍首相の成長戦略スピーチに始まり、新制度の検討に多くの関係者が心血を注いだ。説明会で示したガイド案など、業界の専門家が本気になればひと月でまとまりそうな内容でもある。これでは何のための事業かと思われても仕方がない。

 健食市場の規模は一兆円を越えている。昔のように一部の利害関係者だけの思惑で動かせる業界ではない。業界は一枚岩ではないが、新制度の検討の中ではさまざまな背景を持つ各団体の連携もみられた。農水省の補助事業も参加者が独りよがりにならず、業界全体の合意を望めば別の落とし所を見出せたはずだ。価値ある自主規制の実行で市場の発展を図るため、一連の騒動に事業者も学ばなければならない。

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