〝モラトリアム産業〟から脱せよ
2015年07月02日 10:08
2015年07月02日 10:08
健康食品産業は転換期にある。政府は規制改革により、健食の機能性表示を解禁し、「機能性表示食品」を作った。自らの責任で根拠さえ持てば、機能を表示してもよいという存在価値が与えられたのだ。届出は、仮にそれが疑義を呈されるものであったとしても、自ら研究をまとめ、国民に開示する企業姿勢そのものが、従来の健食をただ売る企業より評価されるだろう。健食はいわばモラトリアム産業と言える時代を終え、より"中身"が問われることになる。
市場は今後、二極化することになる。「イメージ」訴求による従来の健食市場と、明確な機能性表示で訴求する新市場だ。
それぞれ、一長一短がある。「機能性表示食品」は、機能表示できる反面、その内容は届出表示の範囲に限られる。決められた範囲内で広告するトクホや医薬品に近づく印象だ。そうなると、これまでのように"元気の源"のような訴求はできない。届出表示を超えて、アンチエイジングを標ぼうすることになるからだ。個別の商品単位では、ターゲットとなる市場は限定されるかもしれない。
健食はその点で自由だ。「明日への活力」をうたって顧客になりたい自分を想像させてもいいし、「スムーズな毎日」でひざの痛みがない生活シーンをイメージさせてもよい。幅広いターゲットに訴求することも可能だ。ただ、規制は厳しくなる。すでに「機能○○食品」など誤解を生むような食品への指導は行われているし、ダイエット食品に対する監視も厳しくなっている。
どちらに軸足を置くか、企業によって判断は分かれるだろう。新制度は、製品の臨床試験で機能を評価すれば、独自の表示ができる旨味がある。ただ、研究レビューによる評価では、他社と表示が重なる。表示範囲は制約されるのに差別化できないでは、コストのみ増えるとの判断もあるかもしれない。
今の届出の状況をみると、これまで受理されたのは43商品。いずれその数はトクホを抜くことになるだろう。一方で、中小の活用はあまりに少ない。ナショナルメーカーの多くは活用に動くが、中堅どころで受理された通販企業は八幡物産のみ。全体でも14社に留まる。特にこれまで市場をけん引してきた九州勢は、沈黙を守っている。すでに届出を行っているかもしれないが、九州勢はキューサイを除く100億円超の企業のいずれも受理に至っていない。
これまで、健食は制約が少ない中で、クリエイティブの巧みさや顧客サービスの充実、"国民の健康への寄与"などと大上段に構えた理念の放つ輝きが訴求力を生んできた。
だが、すでに市場は1兆円を越える。今後も健食を売る選択肢自体は残るだろう。ただ、食品安全委員会は6月から健食の安全性に関する議論をはじめ、その存在価値の根本に迫ろうとしている。数年前なら一部の急進的な消費者団体の主張とあしらえた"流通禁止論"も、いずれ笑えなくなる時代がくるかもしれない。規制改革で産業化への道は開かれた。が、長すぎたモラトリアム期間は終わりを告げ、健食を売る責任と根拠の真贋が問われる時代がきたことを意識する必要がある。