医薬品通販訴訟の行方を注視せよ
医薬品通販規制訴訟の一審敗訴の判決を不服として、原告のケンコーコムとウェルネットは4月13日、東京高等裁判所に控訴状を提出した。原告側は、省令でネット販売や通販で扱える医薬品をビタミン剤などの第3類医薬品だけに制限するのは違憲として省令当該部分の取り消しなどを求めていたが、一審判決は原告の請求を全て棄却、ネットの情報提供が対面劣ると判断を下した。医薬品ネット販売規制を巡っては、以前から様々な問題が指摘されてきたが、購入者と直接顔を合わせているか否かという点だけでネットは対面に劣ると判断した判決は、原告だけではなく他のネット販売事業者にとっても受け入れられるものではない。
対面であれば薬剤師等の専門家が購入者の顔色などを見ることができ安全。これがネットは対面に劣るという司法判断の理由だが、科学的根拠に乏しく、規制導入までの検討過程をみても対面販売の実態等が十分に検証されていないのが実情だ。
実際、2004年に医薬品販売制度見直しの検討が始まって以降、医薬品ネット販売事業者が蚊帳の外に置かれたまま議論が進められ、ネット販売事業者が薬業団体関係者等と同じ議論の席についたのは省令施行間際になって設置された「新医薬品販売制度の円滑施行に関する検討会」からだ。しかも薬業団体等の規制推進派委員が大勢を占める同検討会では、ネット販売の安全性等に踏み込んだ議論は行われず、結局、検討会としての意見がまとめられないまま打ち切られている。
一審判決では、省令施行までの過程に違法性はないとしたが、ネット販売を取り巻く環境が変化する中で、ネット販売事業者抜きで検討作業を進めてきたことに不備があったことは明らかで、混迷を極めた「円滑施行に関する検討会」での規制推進派委員の主張を全面的にトレースしたような司法判断を下したのは拙速だと言わざるを得まい。
そもそも医薬品ネット販売は、従来の医薬品販売制度の中で厚労省が適法と認めていたものであり、離島居住者など医薬品の入手が困難な消費者の利便に供してきただけではなく、中小薬局・薬店等にとっても経営上の重要なツールとして機能してきた。副作用を伴う医薬品の販売では安全性を第1に考えるのは当然だが、十分な検証や議論が行われないまま、"対面の原則"という建前だけで排除するのは行き過ぎだ。既にネット販売が定着している現状を考えれば、より安全な情報提供や販売の手法、制度の確立を目指すのが本来あるべき方向性だろう。
国内市場の縮小が進む中、ネットは経営効率化や生産性向上のツールとしても期待されており、ネット販売専業事業者のほか、GMSなどのリアルの小売業でもネット販売の取り組みを積極化している。そうした中でネットの情報提供は対面に劣るという司法判断が下されたことは、時代の流れに逆行するものとしか言いようがなく、ネットビジネス全体の発展を考える上でも看過できない問題だ。医薬品以外のネット販売・通販事業者も自らの問題と捉え、ケンコーコムおよびウェルネットの控訴審の行方を見守る必要があろう。
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対面であれば薬剤師等の専門家が購入者の顔色などを見ることができ安全。これがネットは対面に劣るという司法判断の理由だが、科学的根拠に乏しく、規制導入までの検討過程をみても対面販売の実態等が十分に検証されていないのが実情だ。
実際、2004年に医薬品販売制度見直しの検討が始まって以降、医薬品ネット販売事業者が蚊帳の外に置かれたまま議論が進められ、ネット販売事業者が薬業団体関係者等と同じ議論の席についたのは省令施行間際になって設置された「新医薬品販売制度の円滑施行に関する検討会」からだ。しかも薬業団体等の規制推進派委員が大勢を占める同検討会では、ネット販売の安全性等に踏み込んだ議論は行われず、結局、検討会としての意見がまとめられないまま打ち切られている。
一審判決では、省令施行までの過程に違法性はないとしたが、ネット販売を取り巻く環境が変化する中で、ネット販売事業者抜きで検討作業を進めてきたことに不備があったことは明らかで、混迷を極めた「円滑施行に関する検討会」での規制推進派委員の主張を全面的にトレースしたような司法判断を下したのは拙速だと言わざるを得まい。
そもそも医薬品ネット販売は、従来の医薬品販売制度の中で厚労省が適法と認めていたものであり、離島居住者など医薬品の入手が困難な消費者の利便に供してきただけではなく、中小薬局・薬店等にとっても経営上の重要なツールとして機能してきた。副作用を伴う医薬品の販売では安全性を第1に考えるのは当然だが、十分な検証や議論が行われないまま、"対面の原則"という建前だけで排除するのは行き過ぎだ。既にネット販売が定着している現状を考えれば、より安全な情報提供や販売の手法、制度の確立を目指すのが本来あるべき方向性だろう。
国内市場の縮小が進む中、ネットは経営効率化や生産性向上のツールとしても期待されており、ネット販売専業事業者のほか、GMSなどのリアルの小売業でもネット販売の取り組みを積極化している。そうした中でネットの情報提供は対面に劣るという司法判断が下されたことは、時代の流れに逆行するものとしか言いようがなく、ネットビジネス全体の発展を考える上でも看過できない問題だ。医薬品以外のネット販売・通販事業者も自らの問題と捉え、ケンコーコムおよびウェルネットの控訴審の行方を見守る必要があろう。