消費者庁は体制整備を急げ

2010年09月02日 10:19

2010年09月02日 10:19

この9月1日で消費者庁設置から1年が経過した。消費者行政の「司令塔」の役割を担うべく、福田康夫元首相の肝いりで設置されたものだが、この1年間の取り組みについて、対応の遅れなどを指摘する声が少なくない。各省庁からの寄り合い所帯で、情報の収集体制や指示命令系統などが一変したということを考慮すれば、当初からある程度予想されたことだが、事前の準備が不足していた観は否めない。その意味では、消費者行政を適切に遂行するための体制整備が先決だろう。

 しかし、このところの消費者庁の動きを見ると、消費者保護を名目にした新たな規制導入を検討する傾向が強まっている。無論、確信犯的な悪質事業者から消費者を守ることは必要だが、通販等の事業者にとって問題なのは、消費者代表を自負する消費者団体等の委員の意見に流された議論が進んでいることだ。

 端的な例は、「健康食品の表示に関する検討会」だろう。同検討会では、消費者団体等の委員の意見に押し込まれる形で結論が表示・広告など規制強化の方向に傾いた。さらに同検討会で象徴的だったのは、消費者庁自らが「消費者の立場に立つため、従来産業振興を担ってきた省庁と一線を画し、規制が中心になる」と発言したことだ。消費者庁設置後初の検討会で、"規制中心"の意向を示したということは、それ以降の検討会でも同様のスタンスで協議が進められることを意味する。

 これは、消費者庁が8月18日に立ち上げた「インターネット消費者取引研究会」にも同様のことが言える。ワンクリック請求など、ネットの特性を悪用した違法行為を行う事業者を排除するという同検討会の目的は、理解できる。だが、検討作業を進める中で、消費者団体等の委員の意見に偏重した議論になる可能性が高く、一部の確信的な悪質事業者、あるいは特異な事例を引き合いに出し、一緒くたに規制を掛けるような流れになりかねないのが実情だ。仮に、そうした規制の方向に進めば、産業として数少ない成長分野であるネット販売市場の発展の足かせにもなりかねない。これは通販事業者としても看過できない問題だ。

 このほかにも「集団的消費者被害救済制度研究会」が、民事訴訟での救済が難しい小額かつ多人数の消費者被害等の救済策について、集合訴訟制度等を盛り込む案をまとめたが、実際の運用を考えると、消費者被害救済の名目で濫訴を招く恐れがあるなど問題も少なくない。今後、消費者委員会で具体的な制度の検討を行うことになるが、運用面も勘案した慎重な議論が求められよう。

 消費者保護を名目にした規制の検討を進める消費者庁だが、設立から1年が経過しても見えてこないものがある。消費者に身を守る術を持たせる上で重要な消費者教育の取り組みだ。これについては、消費生活センターの人員体制整備や広報の問題などもあるようだが、消費者行政の両輪となる消費者教育が遅れているとすれば、「司令塔」としての役割を果たすことはできまい。消費者庁がまず取り組むべき課題は、規制の検討ではなく、消費者行政の両輪を機能させるための体制整備だろう。

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