ディーエイチシー(=DHC)が、事業構造の改革に向けた「選択」と「集中」を進めている。23年のオリックスによる買収から2年、組織改革など基盤整備を行ってきた。オリックス傘下で、今期を初年度とする中期計画を初めて策定。これからの3年で行う「選択」と「集中」は何か。
商品開発体制など基盤整備
DHCの業績は20年に1000億円を割り、買収前の22年は905億円まで落ち込んでいた。
24年12月期は、前年比2.2%増の987億円。「1000億円に残念ながら届かなかったが、事業構造の変革に道筋をつけられた1年」。髙谷成夫会長は、前期をそう評価する。利益は非開示だが、7年ぶりの増収増益で着地した。健康食品、化粧品の各事業も増収。通販・流通の主要チャネルも成長を維持しており、「屋台骨は盤石なものにできた」(髙谷会長)とする。
ホテル事業やヘリコプター事業など、事業の多角化が進んでいたDHCだが、オリックスは、これら事業を承継外にした。今年に入り、ビール事業も新設会社に権利を移譲。基幹事業である健康食品、化粧品に経営資源を集中させている。
この2年は、オーナー経営からチーム経営への転換、縦割りで連携の弱い組織の改革など基盤整備を進めてきた。オーナー経営からの脱却では、企業の存在意義や価値観共有に向けたパーパス、行動指針等を策定し、社員への浸透を進めた。組織再編では、事業、チャネル横断でマーケティングを統括する機能を強化。連携に課題のあった研究開発、商品企画等の部門が一体感を持ち、商品開発できる体制を作り上げてきた。
商品ポートフォリオを再構成


今期から25年度を初年度とする中期計画を実行する。3カ年を、より成長戦略に寄与する基盤整備を進めるセカンドステージと位置づける。商品政策の強化、海外強化を見据えた投資、DX強化に向けたシステムインフラの整備を重点課題にあげる。
商品は、再構築した商品開発体制を軸に、全体のポートフォリオ構成を見直す。化粧品は、現在、約600あるSKUに200SKUを追加投入する一方で、収益性やターゲットの重複などを考慮要素に商品構成の最適化を進める。デジタル戦略の強化で、通販・流通ともに若年層の接点も増やす。健食は、通販における位置づけの強化を目的に、付加価値の高い商品を投入していく。
海外売上比率20%強を計画
海外は、現地法人のある中国、台湾、米国で事業成長の礎を築く。この2年で、現地採用のトップマネジメントの配置、マネジメント体制の刷新により「各国の市場に応じ、臨機応変な事業推進が可能な形に移行してきた」(同)という。
代理店を通じて展開してきた19カ国も、展開国を9カ国に絞り、代理店政策も22から11に集約。主要代理店と強固な協力関係の構築を進めてきた。東南アジア、インドなど新たな展開国への投資も行い、中計最終年度に20%強の海外売上比率を計画する。
直営店、体験価値向上目的に刷新
チャネル戦略で課題を残すのは、店舗戦略だ。ピークに約200あった直営店は、整理を進め、現在は94店舗(今年4月時点)。「これまでは通販の補完機能として出店してきた経緯がある。直営店は、セルフ販売でありながらカウンセリングできる重要なチャネルだが、現状は、選択と集中の中で効率を探っている段階。通販、流通にはない価値を提供する必要がある」(同)と、現状をみる。

今年4月に改装した新店舗(なんばCITY店=画像、大阪市中央区難波)は、品揃えを重視した設計から顧客体験価値の向上を意識したコンセプトに刷新。商品の体験スペースの確保、回遊動線、VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)の見直しにより、接客に適した設計に変えた。
ただ、検証や接客力の向上には、コストと時間を要するとみられる。中計最終年度に、「着実な成長と利益が出せる構造にする」(同)と話す。
「効率のいい経営」の選択と集中
「選択」と「集中」を進める中、スピード感を持ち企業価値向上を図る上で、事業成長に貢献しない資産の整理も課題だろう。

DHCは、都内の麻布・芝浦エリアに本社ビル、流通センターなど複数の不動産を持つ。本社ビルは90年代に所有。昨今の不動産価格の高騰で、現在の資産価値は、「土地・建物で80~90億円するのではないか」(周辺不動産)、「50億円以上はする」(別の周辺不動産)といった評価が聞かれる。土地価格の試算に用いられる路線価をみても、ここ10年で2~3倍ほど資産価値は高まっているとみられる。流通センターのある芝浦も、マンション等の開発が進む。
複数の関係筋によると、DHCはこれら不動産の売却を検討しているという。「事業の立て直しを図りつつ、経営の効率化を進め売却する選択肢はある」(業界関係者)、「売上拡大に併せて資産整理を進めれば資産効率が高まり、一般的に効率のよい経営と評価され企業価値は高まる」(別の業界関係者)。
DHCは、本社移転を予定しているとしたが、不動産売却は「開示していない」(同社)。ただ、「拠点分散が事業成長の弊害になっている側面はある」(髙谷会長)としている。すでに拠点統合、効率化に取り組む物流のほか、コールセンター機能の最適化も課題になるとみられる。
◇
DHCは、オリックス中核部署である事業投資本部を率い、DHCの買収も手掛けた三宅誠一常務執行役事業投資本部長が取締役を兼務する。創業者の高齢化を背景に、海外ではIPOで運用会社を売却するトレンドがある。「オリックスはもともと金融業。買収の狙いがどこにあるのか分からない」(前出の通販幹部)。
オリックスの強みは、自己資金による投資を基本に、投資回収に向けたイグジットの期間に制約されることなく、長期保有など柔軟な投資戦略を持てるスタイルにある。IPOを視野に資産効率を高めるのか。長期的戦略を描けるかが経営再建のカギになる。
事業構造改革の進捗を聞く
年平均2桁の売上成長へ
海外事業、成長のけん引役

オリックス傘下で進めてきた「選択」と「集中」、成長戦略について、DHCの髙谷成夫会長(=写真)に聞いた。
◇
――新たな経営体制に移行して初めて「2030年VISON」とともに中期3カ年計画を策定した。
「新体制をスタートした2023年からの2年は、事業基盤の整備を中心に、ガバナンスを大幅に見直し、同時に組織変革を進めてきた。研究・企画・開発や品質管理などの事業基盤の強化はもちろんのこと、自主自律型経営への組織風土改革、人材強化に取り組んできた」
「今期からの新中期3カ年計画は、2030年までを3つのステージに分けた中でのセカンドステージと位置づけ、年平均2桁の売り上げ成長を目指す。新たなマーケティング展開、新商品の投入、海外事業強化など、成長戦略を実現する。とくにこれまで情報システムインフラの課題に引きずられて顧客体験価値を実現するためのDXに遅れをとってきたが、一気に巻き返しを図る。商品政策は、全体のポートフォリオを見直しながら積極的に新商品を投入する。海外事業は事業成長のけん引役とし、現在17%の売上比率を3カ年の最終年度の27年度に20%強まで引き上げ、30年に3割とするチャレンジングな目標を掲げた」
――海外展開における他社優位性は。
「各国の市場状況や国民性、とくに各国の規制状況により優位性は異なり、ローカライゼーションこそが強みになる。化粧品は、国内の主力商品が現地でも高く評価されており、越境ECを含め、多様な販売チャネル展開が事業をけん引している。健康食品は日本でのトップシェアの信頼性、コストパフォーマンスをベースに、各国の市場状況に応じたマーケティング手法を柔軟に取り入れ成長を実現している」
――新たな進出国は。
「ベトナムの売上成長をみると、東南アジア圏での成長は十分可能だ。インドでの事業展開も開始している。日本からのサポート体制強化が海外事業展開のポイントでもあり、急ピッチで取り組んでいる。各国の規制対応から、商品・プロモーションにおける強い連携が飛躍のカギになる」
――商品政策における各事業の取り組みは。
「化粧品分野は厳しい競争環境の中で長く売り上げが低迷してきた反面、今後の取り組み余地は大きく、中核となる商品シリーズの再強化と積極的な商品投入で反転成長を目指す。3カ年で200SKUレベルで新商品を積極的に投入、リニューアルする一方で、現在、600あるSKUを収益性や顧客ニーズの観点から商品ポートフォリオを見直しスリム化を図る」
「健食分野は、一般流通チャネルでのトップシェアを維持しつつ、健食市場自体の拡大を目指す。さらに現状は価格帯を含め一般流通チャネルに比較的適した商品構成になっている。より付加価値の高い商品投入で通販チャネルの位置づけを強化する」
――収益性向上に向けた取り組みについて聞きたい。多くの不動産を保有する。本社ビル等の売却など整理を進めているか。
「販売部門、管理部門、研究部門など、それぞれの拠点が複数に分散しているのは事実だ。一体感をもって事業再構築を進める上で、拠点分散がその弊害になっている側面があり、基盤整備の中でも集約を進めてきたが、さらに拠点統合の方向性で検討は進めている。その観点から自社ビル売却も一つの選択肢ではある」
――資産効率の向上によるIPOを視野に入れているのではないか。
「一般論として選択肢の一つではあるが、現時点で何らかのイグジットの方向性を限定しているわけではない。どのような形であれ長期的に利益を創造できる筋肉質な企業体質に変えることが喫緊の課題だ。拠点集約もその一つ。すでに物流拠点も2拠点に統合した。コアコンピタンスに基づく事業の選別もこの2年で進めてきており、事業の選択と集中をさらに進める」
――大手メーカーによるM&A、世代交代など通販市場は転換期にある。改めてDHCの強みと市場の展望は。
「市場で存在感を発揮し続けるには、革新的な商品投入を前提に顧客と長期に渡る関係を築き続けることができる知見、アセットをつくれるかが勝負になる。その意味で、今の事業規模を支えている愛用者の継続率、顧客価値は他社と比較しても依然として高いレベルにある」
「ただ、これまでの成長とこれからの成長は別の問題だ。これからの成長を支える顧客の長期的な関係構築のためには、新たな取り組みが必要だ。そのためにも、商品はもちろんのこと、商品やサービスを超えた顧客との新たな関係づくり、そのためのDXへの取り組みが大きな勝負どころとなる」
商品開発体制など基盤整備
DHCの業績は20年に1000億円を割り、買収前の22年は905億円まで落ち込んでいた。
24年12月期は、前年比2.2%増の987億円。「1000億円に残念ながら届かなかったが、事業構造の変革に道筋をつけられた1年」。髙谷成夫会長は、前期をそう評価する。利益は非開示だが、7年ぶりの増収増益で着地した。健康食品、化粧品の各事業も増収。通販・流通の主要チャネルも成長を維持しており、「屋台骨は盤石なものにできた」(髙谷会長)とする。
ホテル事業やヘリコプター事業など、事業の多角化が進んでいたDHCだが、オリックスは、これら事業を承継外にした。今年に入り、ビール事業も新設会社に権利を移譲。基幹事業である健康食品、化粧品に経営資源を集中させている。
この2年は、オーナー経営からチーム経営への転換、縦割りで連携の弱い組織の改革など基盤整備を進めてきた。オーナー経営からの脱却では、企業の存在意義や価値観共有に向けたパーパス、行動指針等を策定し、社員への浸透を進めた。組織再編では、事業、チャネル横断でマーケティングを統括する機能を強化。連携に課題のあった研究開発、商品企画等の部門が一体感を持ち、商品開発できる体制を作り上げてきた。
商品ポートフォリオを再構成
商品は、再構築した商品開発体制を軸に、全体のポートフォリオ構成を見直す。化粧品は、現在、約600あるSKUに200SKUを追加投入する一方で、収益性やターゲットの重複などを考慮要素に商品構成の最適化を進める。デジタル戦略の強化で、通販・流通ともに若年層の接点も増やす。健食は、通販における位置づけの強化を目的に、付加価値の高い商品を投入していく。
海外売上比率20%強を計画
海外は、現地法人のある中国、台湾、米国で事業成長の礎を築く。この2年で、現地採用のトップマネジメントの配置、マネジメント体制の刷新により「各国の市場に応じ、臨機応変な事業推進が可能な形に移行してきた」(同)という。
代理店を通じて展開してきた19カ国も、展開国を9カ国に絞り、代理店政策も22から11に集約。主要代理店と強固な協力関係の構築を進めてきた。東南アジア、インドなど新たな展開国への投資も行い、中計最終年度に20%強の海外売上比率を計画する。
直営店、体験価値向上目的に刷新
チャネル戦略で課題を残すのは、店舗戦略だ。ピークに約200あった直営店は、整理を進め、現在は94店舗(今年4月時点)。「これまでは通販の補完機能として出店してきた経緯がある。直営店は、セルフ販売でありながらカウンセリングできる重要なチャネルだが、現状は、選択と集中の中で効率を探っている段階。通販、流通にはない価値を提供する必要がある」(同)と、現状をみる。
ただ、検証や接客力の向上には、コストと時間を要するとみられる。中計最終年度に、「着実な成長と利益が出せる構造にする」(同)と話す。
「効率のいい経営」の選択と集中
「選択」と「集中」を進める中、スピード感を持ち企業価値向上を図る上で、事業成長に貢献しない資産の整理も課題だろう。
複数の関係筋によると、DHCはこれら不動産の売却を検討しているという。「事業の立て直しを図りつつ、経営の効率化を進め売却する選択肢はある」(業界関係者)、「売上拡大に併せて資産整理を進めれば資産効率が高まり、一般的に効率のよい経営と評価され企業価値は高まる」(別の業界関係者)。
DHCは、本社移転を予定しているとしたが、不動産売却は「開示していない」(同社)。ただ、「拠点分散が事業成長の弊害になっている側面はある」(髙谷会長)としている。すでに拠点統合、効率化に取り組む物流のほか、コールセンター機能の最適化も課題になるとみられる。
DHCは、オリックス中核部署である事業投資本部を率い、DHCの買収も手掛けた三宅誠一常務執行役事業投資本部長が取締役を兼務する。創業者の高齢化を背景に、海外ではIPOで運用会社を売却するトレンドがある。「オリックスはもともと金融業。買収の狙いがどこにあるのか分からない」(前出の通販幹部)。
オリックスの強みは、自己資金による投資を基本に、投資回収に向けたイグジットの期間に制約されることなく、長期保有など柔軟な投資戦略を持てるスタイルにある。IPOを視野に資産効率を高めるのか。長期的戦略を描けるかが経営再建のカギになる。
年平均2桁の売上成長へ
海外事業、成長のけん引役
――新たな経営体制に移行して初めて「2030年VISON」とともに中期3カ年計画を策定した。
「新体制をスタートした2023年からの2年は、事業基盤の整備を中心に、ガバナンスを大幅に見直し、同時に組織変革を進めてきた。研究・企画・開発や品質管理などの事業基盤の強化はもちろんのこと、自主自律型経営への組織風土改革、人材強化に取り組んできた」
「今期からの新中期3カ年計画は、2030年までを3つのステージに分けた中でのセカンドステージと位置づけ、年平均2桁の売り上げ成長を目指す。新たなマーケティング展開、新商品の投入、海外事業強化など、成長戦略を実現する。とくにこれまで情報システムインフラの課題に引きずられて顧客体験価値を実現するためのDXに遅れをとってきたが、一気に巻き返しを図る。商品政策は、全体のポートフォリオを見直しながら積極的に新商品を投入する。海外事業は事業成長のけん引役とし、現在17%の売上比率を3カ年の最終年度の27年度に20%強まで引き上げ、30年に3割とするチャレンジングな目標を掲げた」
――海外展開における他社優位性は。
「各国の市場状況や国民性、とくに各国の規制状況により優位性は異なり、ローカライゼーションこそが強みになる。化粧品は、国内の主力商品が現地でも高く評価されており、越境ECを含め、多様な販売チャネル展開が事業をけん引している。健康食品は日本でのトップシェアの信頼性、コストパフォーマンスをベースに、各国の市場状況に応じたマーケティング手法を柔軟に取り入れ成長を実現している」
――新たな進出国は。
「ベトナムの売上成長をみると、東南アジア圏での成長は十分可能だ。インドでの事業展開も開始している。日本からのサポート体制強化が海外事業展開のポイントでもあり、急ピッチで取り組んでいる。各国の規制対応から、商品・プロモーションにおける強い連携が飛躍のカギになる」
――商品政策における各事業の取り組みは。
「化粧品分野は厳しい競争環境の中で長く売り上げが低迷してきた反面、今後の取り組み余地は大きく、中核となる商品シリーズの再強化と積極的な商品投入で反転成長を目指す。3カ年で200SKUレベルで新商品を積極的に投入、リニューアルする一方で、現在、600あるSKUを収益性や顧客ニーズの観点から商品ポートフォリオを見直しスリム化を図る」
「健食分野は、一般流通チャネルでのトップシェアを維持しつつ、健食市場自体の拡大を目指す。さらに現状は価格帯を含め一般流通チャネルに比較的適した商品構成になっている。より付加価値の高い商品投入で通販チャネルの位置づけを強化する」
――収益性向上に向けた取り組みについて聞きたい。多くの不動産を保有する。本社ビル等の売却など整理を進めているか。
「販売部門、管理部門、研究部門など、それぞれの拠点が複数に分散しているのは事実だ。一体感をもって事業再構築を進める上で、拠点分散がその弊害になっている側面があり、基盤整備の中でも集約を進めてきたが、さらに拠点統合の方向性で検討は進めている。その観点から自社ビル売却も一つの選択肢ではある」
――資産効率の向上によるIPOを視野に入れているのではないか。
「一般論として選択肢の一つではあるが、現時点で何らかのイグジットの方向性を限定しているわけではない。どのような形であれ長期的に利益を創造できる筋肉質な企業体質に変えることが喫緊の課題だ。拠点集約もその一つ。すでに物流拠点も2拠点に統合した。コアコンピタンスに基づく事業の選別もこの2年で進めてきており、事業の選択と集中をさらに進める」
――大手メーカーによるM&A、世代交代など通販市場は転換期にある。改めてDHCの強みと市場の展望は。
「市場で存在感を発揮し続けるには、革新的な商品投入を前提に顧客と長期に渡る関係を築き続けることができる知見、アセットをつくれるかが勝負になる。その意味で、今の事業規模を支えている愛用者の継続率、顧客価値は他社と比較しても依然として高いレベルにある」
「ただ、これまでの成長とこれからの成長は別の問題だ。これからの成長を支える顧客の長期的な関係構築のためには、新たな取り組みが必要だ。そのためにも、商品はもちろんのこと、商品やサービスを超えた顧客との新たな関係づくり、そのためのDXへの取り組みが大きな勝負どころとなる」