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〈活用進む「楽天事業承継アシスト ①」〉 岩手の時計店が事業譲渡、売り手社長が全面サポート

2025年 5月29日 12:00

 事業運営者の高齢化や後継者不足といった課題が深刻化する中で、中小企業にとって深刻な悩みとなっている「事業承継」。ベンチャーのイメージが強いEC業界だが、楽天グループの仮想モール「楽天市場」が誕生したのは1997年のこと。すでに30年近く事業を続けているEC企業もあるわけだ。また、傾いていた老舗の小売りや卸などが、黎明期のEC市場に進出することで事業を立て直したというケースは珍しくない。そういった事業者も「代替わり」の時期を迎えているわけで、EC業界にとっても事業承継は喫緊の課題といえる。

 こうした状況を受けて楽天では、出店店舗の事業承継に関する意思決定や、M&A仲介会社の紹介、譲受企業の選定などにおいて、事業承継希望店舗と譲渡先企業の双方が納得する形で店舗の受け渡しができるよう支援するサービス「楽天事業承継アシスト」を2019年に立ち上げた。マッチング成立後も、店舗がスムーズに運営移行できるよう、楽天市場に登録している企業情報の変更手続きのサポート、譲渡先の企業に対する店舗の運営ガイダンスなどを実施している。

 このたび、TMプラネットが同サービスを活用し、運営する「腕時計とバンドのアビーロード」楽天市場店を、タオルや作業着の加工、卸販売事業を手掛けるアシークに売却した。TMプラネットは「アビーロード」を2000年に楽天市場へ出店、月間優良ショップ賞を多数受賞するなど、腕時計ジャンルの有力店として知られてきた。実店舗や蒔絵時計なども手掛けているが、今回譲渡したのはEC事業、それも楽天市場店のみとなる。

 TMプラネットの田口正社長は、事業譲渡を考えたきっかけについて「EC事業は2名の社員に任せていたが、コロナ禍後に仕事の負荷が増えたこともあり相次いで退社してしまった。幸い人員は補充できたものの、時計業界のことは私でないと分からないので、“3足のわらじ”は自分の年令を考えると厳しい。トラブルが起きた際に対応する知力・体力が衰えていくのではないかと考えた」と説明する。

 事業の譲渡を考えはじめたのは2023年ごろ。ちょうど、楽天より「楽天事業承継アシスト」に関するメールが来たこともあり、すぐに申し込みをしたという。田口社長は「会社を丸ごと売るのではなく、EC事業のみ譲ることを考えていた。楽天市場の店舗をスムーズに譲渡できるサポートサービスということなので、ちょうどいいと思った」と振り返る。

 楽天では、提携する複数のM&A仲介会社の中からバトンズを紹介。楽天もサポートしながら買い手探しを行い、1年8カ月の期間を経てアシークに事業承継を行うことが決まった。「当初は時計・宝飾業界に通じた会社に売却したいと考えていたが、タイミングや条件面でなかなか折り合わなかった」(田口社長)。同店は当初、腕時計をメインに扱っていたが、値崩れが激しくなったことなどを受け、腕時計バンドをメイン商材にシフト。売り上げはピーク時の月商1000万円から300万円まで落ちたものの、利益は以前よりも出るようになったという。ただ、バンドが主力商材ということもあって、同じ業界ではなかなか買い手がつかなかった。

 アシークは2023年創業で、作業着の名入れ事業を青森県八戸市の事業所で展開している。時計業界とは無関係なのはもちろん、ECについても全くの未経験。当初は本命の買い手先ではなかったという。

 田口社長は「業界の人じゃないし、ECの経験もないし、本当に大丈夫かなと思っていた。ただ、私自身も40年前に妻と二人三脚で会社を立ち上げた経験がある。アシークさんもご夫婦で会社を経営されているということで親近感を抱いた」と話す。アシークの斉木美樹代表(現在の「アビーロード」運営者)に盛岡まで来てもらい、話し合いもしたという。「時間はかかるかもしれないが、私がノウハウを伝えればやっていけると確信した」(田口社長)。

 事業譲渡は4月11日に成立。5月現在は引き継ぎを行っている最中だ。仕入れルートの紹介はもちろん、通販サイトの運営ノウハウ伝授など、教えなければいけないことは山積している。田口社長は「引き継ぎは1年かかるだろう。せっかく事業を承継してもらったのに、すぐに退店してしまうということには絶対にならないよう、サポートしていきたい」と語る。(つづく)
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