〈天沼聰社長に聞くエアークローゼットの成長戦略 ㊤〉 〝試して買う〟普及させたい、地道なコスト削減で黒字化に

2025年12月04日 13:49

2025年12月04日 13:49

 ファッションレンタルサービス「airCloset」を手がけるエアークローゼットが2025年6月期に初めて黒字化した。今後は会員数の大幅増加に向け、コラボレーションやオフライン接点の強化など、新規獲得手段の多様化を図っていくという天沼聰社長に、黒字化の背景や今後の展望などについて聞いた。


1204134947_693112eb4bdcf.jpg ――黒字化を果たした。

 「エアークローゼット事業は、会員数の増加と月額会費の掛け算で、会員一人当たりの限界利益が固定費を上回れば黒字になるというシンプルなビジネスモデルだ。2022年のIPO時には広告宣伝費を調整することでいつでも黒字化できる状態だったが、会社としては持続可能な成長を重視しており、IPO後3年以内の黒字化を想定していた。エアクロ事業のみの黒字化は24年6月期に果たしている」

 「黒字化がゴールではない。サービス開始が第一のスタートラインとしたら、黒字化は第二のスタートラインといった感じだ。我々の最終的な目標は、〝試して買う〟という購買行動を普及させ、消費者がより納得のいく、サステナブルな買い物体験を提供していくこと。そのために広くマスに知ってもらうことは不可欠。事業成長に向け、引き続き先行投資していきたい」

 ――黒字化に大きく寄与した施策は。

 「飛び道具的な施策はなくて、クリーニングや物流の体制を洋服1点あたり数円ずつ効率化していくといった地道な改善活動が、成果を生んでいるように思う。コスト削減の部分で言うと、RFIDタグの導入などは、大きな作業効率化につながった」

 ――売り上げを伸ばすための施策は。

 「新規会員の方の中には、ファッションレンタルというサービスに馴染みがなく、使い方がよく分からないというお客様もいるため、初回お届けの際にフォローアップの電話をかけている。それにより安心感が醸成され、継続率の向上にもつながる」

 「以前は1カ月ごとの契約プランのみの提供だったが、3カ月や6カ月ごとの長期プランも新たに開設した。長期プランを事前にお支払いいただく場合、どうしても金額が大きくなってしまうので、いわゆる『分割払い』のような形で、お客様の都合に合わせて課金のタイミングを分けられるように工夫した」 

 「また、他社とコラボして、毎月のお届け時にギフトを同梱している。当初はサンプリング同梱に広告費をいただいていたが、枠が決まっている広告事業で一定の利益を得るよりも、その利益を全部お客様に還元する方がいいのではないかと考えたため、現在は一切広告費をいただいていない。お客様はサンプリングをもらって嬉しいし、メーカーも広告費がかからない分品物を提供してくれるので、両者がウィンウィンになっている。そうした取り組みが少しずつ継続率向上に寄与して、黒字化につながったのではないか」

 ――スタイリング体験店舗を展開している。

 「コロナが収束して、エアクロ事業が黒字化したタイミングで、体験店舗を開設した。店舗自体の売り上げもそうだが、店舗をきっかけにサブスク会員になってくれるという恩恵が大きい。パーソナルカラーや骨格診断などの診断結果だけでは、お客様ご自身でスタイリングするのが難しいこともある。プロによるスタイリングが付くというエアクロならではのメリットを体感しながらご入会いただけるのは大きい。店舗を通じた入会率は非常に高くなっている」

 ――生成AIをスタイリングに活用している。

 「10月に『AIスタイリストアシスタント』機能をリリースした。顧客から寄せられたファッションの好みやリクエストなどの情報をAIが把握し、対話を通じてコーディネート方針をすり合わせるというものだ。従来のスタイリングでは、スタイリストごとの解釈の違いや、お客様の登録情報に含まれる曖昧さにより、お客様とコーディネート方針を一致させるのが難しい場合があった。『AIスタイリストアシスタント』では、スタイリングを行う前に、AIがお客様のカルテの矛盾点などを指摘してくれる」

 ――AIがスタイリストの役割を代替するわけではない。

 「もちろんスタイリストをAI化するという考え方もあるし、我々も実証実験を行っているが、まだまだ精度的に難しい。スタイリストがメインで服を選び、AIはサポートに徹するのが効果的だ」

 ――オアシスライフスタイルグループとストリートパジャマブランド「Chill ST(チルストリート)」を展開している。 

 「人のライフスタイルを豊かにしたいという想いでエアクロを運営している中で、家の中のファッションには関与できていないというジレンマがあった。コロナ禍には『自宅でオシャレな服に着替えるだけで気持ちが上がる』『家にいるばかりだと元気が出ないので、ビタミンカラーのアイテムを送ってほしい』といった声をたくさんいただいて、ファッションが人に与える効果の大きさを改めて実感した。家にいる時も、もっと自分のことを好きになれるような洋服を着ている方が、時間価値が高まるように思う。オアシスライフスタイル様と話し合って、パジャマブランドを協業しようという話になった」

 ――オアシスライフスタイルとの協働から得られるメリットは。

 「オアシスライフスタイル様は、ポップアップ出店とSNS戦略が非常に上手だと感じている。そうした知見を参考に、自社サロンの出店につなげていければ良い。店舗運営やブランドのものづくりという部分でも、学べる部分は非常に多いはず。我々も洋服の仕入れだけでなく、ものづくりのノウハウが得られれば、より一層提携企業に様々なリクエストができるかもしれない」

 ――家電の月額制レンタルモール「エアクロモール」事業の進捗は。

 「伸びは順調だ。現在はエアクロ事業を除いた『その他事業』の中の一つとしてカテゴライズされているが、今後はエアクロモールも一事業として切り出して、柱の一つとしていきたい」

 ――エアクロモールではビックカメラと連携した実証実験を行っている。

 「ビックカメラの直営店舗および公式通販サイトで美容家電等の購入を検討するお客様に、エアクロモールを案内する取り組みを行っている。たとえば、店頭でドライヤーを試してみても、髪質がどう変わるかまでは確かめられない。美容家電や生活家電は高額アイテムなので、きちんと試して、習慣的に使えるかどうか確かめた方が、納得のいく買い物ができると思う。これまで家電を購入する際は〝買う〟か〝買わない〟かの2択だったが、我々は〝試して買う〟という選択肢も提示していきたい」(つづく)

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