〈企業公式X中の人の視点 GMOサインの馬が考える②〉 雑談9割が戦略になる理由 ──そして遠回りが、また始まった

2026年05月28日 16:45

2026年05月28日 16:45

 私が発信する投稿に、大した中身はありません。自覚していますし、意図的にそうしています。なぜならXは、商品を売ろうとすればするほど売れない場所だからです。多くの企業が売上直結を目的にアカウントを開設するため、「会社のアカウント=商品を売る発信」という方程式が出来上がり、担当者が日々商品の魅力を発信しています。でもその投稿の大半は、誰にも届いていません。


0430114810_69f2c2ea4634f.pngXはなぜ、売ろうとすればするほど売れないのか

 Xに来ているユーザーは、商品を探しに来ているわけではありません。好きなものについて誰かと話したい、今起きていることをいち早く知りたい、誰かの何気ないつぶやきに共感したい。そういう理由でXを開いています。その場に突然「私たちの商品はこんなに素晴らしい」と割り込んでくる企業の投稿は、ただのノイズです。各社の担当者も、薄々わかっていながら告知を続けます。仕事である以上、会社のアカウントである以上、会社の情報や商品を告知するのが当たり前だからです。でも、一方通行の発信で見てもらえるなら、世の中の企業アカウントはすでにどこも成功しているはずなのです。


 ですが私は、新卒1年目で企業アカウントの担当になったときに、世間的に見て遠回りと思われがちな戦略で戦うことに決めました。商品情報の発信は一見近道の正解に見えますが、ファンを作ることにはつながらない。そのままでは長期的に停滞するだけです。どうせ運用するなら、成長させて会社の役に立つアカウントに育てたいと思ったからです。

テレビ局方式で考える、発信の設計

 私は企業アカウントの運用で、発信比率を雑談9割・会社や商品の情報1割に設定しています。運用イメージはテレビ局で、発信のジャンルは大きく3つです。独自のユニークさやトレンドを武器に多くの人へ届けるゴールデン番組のような投稿。大きな数字は稼げないものの日々の投稿を支える通常番組のような投稿。そして会社や商品の情報を伝えるテレビCMのような投稿です。


 企業が自社の情報や商品の魅力を一方的に発信するだけでファンができるのは、すでに熱量を持ったファンが存在する一部の企業だけです。そういった企業はXで発信するだけで反応が生まれます。でもそれは、Xが育てたファンではなく、もともといたファンがXにもいるというだけの話で、ほとんどの企業にはその前提がありません。だからこそまず人として見てもらう必要があります。雑談が9割なのは手を抜いているからではなく、先にその関係を作らなければ何も届かないからです。


 Xを見ている人は、企業の一方通行の情報発信を必要としていません。だからこそゴールデン番組や通常番組のような役割を持つ投稿で応援してくれる人を集めて育て、時々挟むテレビCMのような投稿を見てくれる人数を増やしていく。誰にも届いていない投稿を続けて停滞し続けるより、見てくれる人とファンを育てる方が長期的には近道だと考え、この方法を続けてきました。

発信量より、見てくれる人を育てること

 もちろん、商品の特徴や情報がXと相性のいい会社はそのまま戦えばいいと思います。ただ私の場合、前職のわかさ生活の主力商品であるサプリメントは薬機法の関係から直接的な訴求ができず、現職で取り扱うGMOサインのような電子契約サービスは、契約という固い商材特性から正攻法が通じません。固い話や興味のない話を一方的に発信し続けても、見ている人は誰も立ち止まってくれないからです。


 だからこそ2社の企業アカウントを運用して、同じ結論にたどり着きました。まず人格を作り、投稿を見てくれるフォロワーを育てる。その先に、届けたい情報を刷り込むチャンスが生まれる。


 「SNSは無料だから発信量を増やせばいい」という意見もあると思います。でもそれは、見ている人がいない場所に向かって叫び続けることと同じです。視聴率のないテレビ番組にCMを出稿しても、誰にも届かないのです。

数字が証明した、遠回りの正しさ

 前職のわかさ生活のアカウントは、誰にも見られていない状態からのスタートでした。フォロワー数9900人、1投稿あたりのインプレッションは約500という状態から運用を始め、約5年でフォロワー数は17万人に成長。年間インプレッションは2年連続で3億回を記録し、世界トレンド入りを含む計6度のトレンド入りも果たしました。自分の人件費以外にコストをかけていないアカウントとしては、十分な成果だと思っています。


 ただ、その裏でいち個人のキャリアとして考えると早い段階から気づいていた課題がありました。自分の実績がアカウントに紐づいてしまっているということです。個人インフルエンサーではなく会社のアカウントである以上、転職すればすべてリセットされる。いつか決断するなら早い方がいいと、2年目にはすでに考えていました。


 転職の際は、わかさ生活の角谷社長の理解と後押しのもと、これまで応援してくれたフォロワーへの発表として転職先を公表するという異例の形を取りました。この投稿は8万いいね・980万インプレッションを記録し、複数媒体にニュース記事として取り上げられ、その日のLINENEWSのトップでも配信されました。


 こういった経緯もあり、私が運営するGMOサイン(@GMO_Sign)のアカウントは私の入社前後で約8000人のフォロワーが増加しました。2025年3月の入社直後から投稿の多くが1000〜3500いいねを記録し、翌月の4月も140投稿中40投稿が1000いいねを超えるなど、BtoBアカウントとして異例の高水準が続き、良いスタートダッシュを切ることができました。


 さらに自分が運営するアカウントだけでなく、私の入社後は別担当者が運営する関連アカウントGMOサインブログ(@GMOSign_JP)の投稿数字も上昇するなど、周辺にまで影響が波及していました。ここまでは正直想定していませんでした。

ある日突然、戦っている競技のルールが変わっていた

0528165042_6a17f3d25b654.jpg しかし、この水準が、2025年5月を境に崩れ始めました。この頃からXのおすすめ表示にAI「Grok」が段階的に導入され始め、現在では投稿の拡散をAIが判断する仕組みへと完全に移行しています。投稿の内容を何も変えていないのに、数字は確実に落ち続け、4月は1000~1999いいねが40件(27.8%)もあったのに対し、5月には11件(8.9%)へと一気に激減しています。


 いいねではなく返信・保存・滞在時間が評価される現状のXで、GMOサインのアカウントは今も苦戦を強いられています。それでもBtoBアカウントとして、また企業アカウント全体としてもトップクラスの数字であることは事実です。ただ、Xの運用スキルを評価されて入社した以上、結果を出すことが私の仕事であり、現状の数字や活動では会社に大きな影響を与えられていません。それが今の現実であり、Xのアルゴリズムと向き合い続ける理由です。

結果が出なければ、戦略は戦略じゃない

 AI式アルゴリズムが導入され企業公式アカウントに不利な条件が重なり、どの企業アカウントも軒並み数字が下がっている状況です。自分が運営するアカウントもなかなか軌道に乗れていない現状で気づいたことがあります。


 雑談9割・馬の被り物という独自の運営は、結果を出しているから「戦略」として成立します。数字が下がり結果が出せなければ、ただ馬を被って雑談しているだけの人になります。これは成功し数字が残せているからこそ、堂々とできることなのです。


 そして数字が下がり始めると、投稿頻度も落ちていくことに気づきました。


 どうせ投稿しても意味がない、インプレッションはもらえないと、手も考えも止まっていくのです。


 それでも私はまだ諦めるつもりはありません。日々複数のAIを活用してアルゴリズムを調べ、投稿につく反応を見ながらアルゴリズムと向き合い続けています。自分の投稿より反応の少ない他社の投稿の方がインプレッションをもらえるケースが多く、一筋縄ではいかない問題であることは確かです。正直、まだ答えは出ていません。それでも考えることをやめないのは、これまで見られ続ける覚悟を持って作った人格が、今まさに試されているからです。これまで遠回りが近道だと信じてきて実際にそうでした。ただ今は、またその入口に立っています。

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