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【検証・悠香の自主回収④】67症例全てが悠香示す、使用原料「グルパール19S」に原因?

2011年 9月29日 10:31

 悠香の品質保証にかかる体制が甘かったことは、300億円超もの売上高を誇りながら、昨年5月、ようやく「製造販売業」(以下、製販業)の取得に至ったことからも窺える。だが、消費者の"安心・安全"に対する要求が高まる中、品質保証は当然「製販業」の取得、これにかかる薬事法上の義務のみをもって成し得るものではない。遅すぎた「製販業」取得に象徴される認識の甘さは、品質担保の重要な要素である原料選定の面でもリスクを生じさせていたのではないか。

 まず今回問題となった加水分解コムギ末(以下、コムギ末)から説明したい。コムギ末はしっとり感など化粧品の使用感の調整や、泡立ちを良くする目的で使われる湿潤剤の一種。メーカーの有名どころでは、成和化成が穀物系の原料製造を得意とする企業として知られる。

 一方、「茶のしずく石けん」に含まれていたコムギ末は、片山化学工業研究所が製造していた「グルパール19S」というものだ。2つの原料を例に挙げた場合、何が違うのか。



 まだ仮説の域を出ないが、小麦アレルギーの発症という観点から見た場合、分子量の違いが大きく関係していたとされる。

 眼や鼻の粘膜は体の内側と外側の境界にあるためウイルスなどの外敵から身を守る免疫機能が発達しており、それだけにアレルギーを起こしやすい部位となる。今回のアレルギー発症は、アレルギーの原因であるコムギ末が洗顔の際に粘膜に付着。危険な成分として体が排除しようと反応した結果発症したとされるが、これは分子量が大きいために起こったのでは、との見解を島根大学医学部皮膚科学研究室の千貫裕子助教らが示している。

 前出2社の分子量を比較すると、成和化成のコムギ末「プロモイスWG―SP」は平均分子量が約700なのに対し、片山化学の「グルパール19S」は「検証の結果、6万以上」(千貫助教)もあったとされる。分子量の大きさが化粧品の機能にどう影響したかは分からないが、日本化粧品工業連合会ではこの結果を受け、分子量5~6万を超えるコムギ末を化粧品・医薬部外品に配合しないよう通知している。



 では、なぜ悠香の製品のみ厚生労働省に67もの症例が寄せられたか。

 これは、片山化学が販売代理店を通じ「グルパール19S」を供給していたのが、「『茶のしずく』の製造委託先であるフェニックス1社のみ」(片山化学)であったことから説明がつく。「茶のしずく」以外にもフェニックスが製造した「グルパール19S」配合の石けんの多くが今回の事態を受けて自主回収を行っているが、創業来、約4650万個(昨年12月の製品変更以前)の販売実績、という市場における圧倒的な流通量があったことから「茶のしずく」のみ症例が報告されたのだろう。



 自主回収発表以降、徐々にその背景が明らかにされ、小麦アレルギー発症の原因として「茶のしずく」に配合されていたコムギ末が話題に上った時のことだ。ある化粧品大手の幹部は、「コムギ末という原料は今回の件で初めて聞いた原料ではない。安全性に関する何らかの文献があったはず」と語っていた。同幹部はマーケティング担当であり、「製販業」に義務付けられている品質保証責任者ではない。だが、"聞いたことがある"という感覚であれ、このことは品質保証の重要な要素である原料の安全性情報を多くの社員が共有していたことを端的に示すものだろう。

 通販大手の広報担当者は自社の品質保証体制について「原料の安全性には独自基準を設け、皮膚科医監修の下で行うテストなど、数段階に及ぶ各種テストを行う。取引先も製造規格など自社の判断基準に合致しなければ取引しない」と話す。品質保証は「製販業」の運用のみならず、取引先への要望、時には管理をもって実現するものだ。

 この点、あるOEM会社の代表は「『茶のしずく』に配合していたコムギ末の原料メーカー(注・片山化学のこと)は化粧品原料製造を主たる業務にしていない。だから品質が悪いということではないが、原料業界は『化粧品原料基準(通称・粧原基)』廃止(※)以降、比較的参入が容易になっている。ただ参入が容易な反面、企業責任は重くなる。(悠香、原料メーカー共に)安全確認をどこまでやっていたのか」との見方を示している。

 自社製品に使われている原料に対する悠香の関心はどの程度のものだったのか。(つづく)
 
※1967年に厚労省が告示した化粧品原料の公定書。収載されていない原料を使うには個別許可が必要だったが、01年に化粧品に全成分表示制度が導入されて以降、大半の原料は企業責任で配合可能になり、06年には実質的に廃止となった。

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