楽天グループでは仮想モール「楽天市場」において、生成AIの活用を進めている。店舗向けには業務効率改善を目的としたツール「Rakuten AI for RMS」を提供しているほか、ユーザー向けには、買い物をサポートするAIエージェント「Rakuten AI」を楽天市場アプリに搭載した。コマース&マーケティングカンパニーCIO&CAIDOでコマース&マーケティングカンパニー開発統括部ヴァイスディレクターの小林悠輔常務執行役員にAI活用の現状を聞いた。
——生成AIの活用を進めている。
「まず着手したのは、徹底的なコストリダクションと業務の効率化。AIを使って人件費を削る、あるいは既存の業務をいかに効率化するかという点にフォーカスしていた。具体的には、楽天市場に出店している店舗が日々直面する、業務負荷の軽減を目指した。例えば、商品画像の背景をAIで自動的に変更できる機能や、カスタマーサポートでの問い合わせ対応文の生成、あるいは数字を読むのが苦手な店舗のために売上データのサマリーを作成してあげるといったもので、店舗の実務に直結する工数を削減して効率を高めることに心血を注いだ」
「ただ、それだけでは生成AIを活用しきれていないということで、昨年後半からは、AI活用のフェーズが大きく進化した。単なる効率化にとどまらず「いかに売り上げにつなげるか(レベニュー)」に腐心している。例えば、クリック課金型の検索連動型広告(RPP)において、これまで店舗が経験則で行っていた広告コストの按分を、AIがデータに基づいて自動的に割り振り、ROASを最大化させる仕組みを導入した。さらには、ユーザーの買い物をサポートするAIエージェント『Rakuten AI』を開発、昨年12月25日には楽天市場アプリに搭載することができた」
——「Rakuten AI」とはどういったものか。
「楽天市場のAIコンシェルジュが、ユーザーとの対話を通じてニーズを理解し、最適な商品選びのサポートと商品のレコメンドを行うものだ。ユーザーは、楽天市場アプリのホーム画面右下にあるアイコンからにアクセスし、希望予算、購入目的、活用シーンなどを、テキストや音声、画像を用いて入力することで、欲しい商品を手軽に検索することができる。当社の強みは『楽天エコシステム』が持つデータの多様性だ。楽天市場の購買データだけではなく、例えば『Rakuten TVでどんな動画を見ているか』『楽天GORAでいつゴルフ場を予約したか』など、ライフスタイル全般を網羅するデータを、楽天市場におけるレコメンドに使うことができる。こうしたサービス間のシナジーを効かせたアルゴリズムが作れる点が差別化ポイントだろう」
——生成AIによる最適化を突き詰めすぎると、体験がコモディティー化していく恐れもある。
「AIが『あなたにはこれだけが最適です』と一つの答えだけを提示すれば、利便性は上がるが、ウィンドウショッピングのようなワクワク感、つまり楽天市場のコンセプトである『ショッピング・イズ・エンターテインメント』という要素がどんどん崩れていきかねない。楽天市場には5万以上の、特定のカテゴリーのプロである店舗がいるわけで、その『プロの知恵』をそれぞれエージェント化して、その集合知である『スーパーエージェント』が、Rakuten AIのコンシェルジュとして買い物をサポートする、といった方向性に舵を切っている。これこそが競合他社や、汎用的なAIツールなどとは違う、楽天の差別化要素になるはずだ」
「ただ、AIに頼り切ると『フィルターバブル』(アルゴリズムがユーザーの興味・関心に基づいた情報ばかりを表示させるようになり、異なる情報や意見などが見えなくなる現象)が起きかねない。そうなると、楽天市場内の回遊率が減ってしまう恐れもある。特定の店舗が上位を独占しないようにしたり、新しく参入した店舗や商材を見つけやすくしたりするロジックを入れている」
——成果は出ているのか。
「Rakuten AIに関しては、購入決定までの時間が約43%短縮、平均注文額が約41%向上するなど、すでに成果が出始めている。ただ、『1回使ってみたけど』というユーザーが目立つのが正直なところだ。精度の問題もあるが、ビジネス的な観点からいうと、小さな画面で商品を選ばせることにハードルがある。また、ユーザーからのフィードバックで分かったのは、『決め打ちで買い物をしたい』人にはマッチしないということ。一方で『40代後半の男性がホワイトデーのお返しをする場合は何がいい?』というような、検索窓に打ちにくい『壁打ち』をしたい時は便利かもしれない。ただ、そういう使い方にユーザーは慣れていないので、そこへどう持っていくかがチャレンジだろう。チャット画面においてはユーザーのニーズを何度も聞かないといけないわけで、その行為に対してユーザーが『わざわざ質問するのは面倒だ』となりかねない。この手間をいかに軽減させながら、会話をユーザーが欲しいものに落とし込めるか、これをUXで実現できれば」
——広告商品はチャット画面でどのように表示するのか。
「今までのRPPとは違うロジックになると思っている。ただ、パソコンからスマートフォンに移行したときと同じように、広告の出面は少なくなってしまう。そこの『見せ方』も含めて、最適な広告商品を考えなければいけない。『PR』マークが付いた商品がチャット内で表示されたとして、それがユーザーのニーズにマッチングすれば違和感を持たれないだろうが、『これは広告だよね』と明らかに分かる商品は敬遠されてしまう。そこのギャップをいかに無くすかが大事になってくる」(つづく)
楽天グループでは仮想モール「楽天市場」において、生成AIの活用を進めている。店舗向けには業務効率改善を目的としたツール「Rakuten AI for RMS」を提供しているほか、ユーザー向けには、買い物をサポートするAIエージェント「Rakuten AI」を楽天市場アプリに搭載した。コマース&マーケティングカンパニーCIO&CAIDOでコマース&マーケティングカンパニー開発統括部ヴァイスディレクターの小林悠輔常務執行役員にAI活用の現状を聞いた。
「まず着手したのは、徹底的なコストリダクションと業務の効率化。AIを使って人件費を削る、あるいは既存の業務をいかに効率化するかという点にフォーカスしていた。具体的には、楽天市場に出店している店舗が日々直面する、業務負荷の軽減を目指した。例えば、商品画像の背景をAIで自動的に変更できる機能や、カスタマーサポートでの問い合わせ対応文の生成、あるいは数字を読むのが苦手な店舗のために売上データのサマリーを作成してあげるといったもので、店舗の実務に直結する工数を削減して効率を高めることに心血を注いだ」
「ただ、それだけでは生成AIを活用しきれていないということで、昨年後半からは、AI活用のフェーズが大きく進化した。単なる効率化にとどまらず「いかに売り上げにつなげるか(レベニュー)」に腐心している。例えば、クリック課金型の検索連動型広告(RPP)において、これまで店舗が経験則で行っていた広告コストの按分を、AIがデータに基づいて自動的に割り振り、ROASを最大化させる仕組みを導入した。さらには、ユーザーの買い物をサポートするAIエージェント『Rakuten AI』を開発、昨年12月25日には楽天市場アプリに搭載することができた」
——「Rakuten AI」とはどういったものか。
「楽天市場のAIコンシェルジュが、ユーザーとの対話を通じてニーズを理解し、最適な商品選びのサポートと商品のレコメンドを行うものだ。ユーザーは、楽天市場アプリのホーム画面右下にあるアイコンからにアクセスし、希望予算、購入目的、活用シーンなどを、テキストや音声、画像を用いて入力することで、欲しい商品を手軽に検索することができる。当社の強みは『楽天エコシステム』が持つデータの多様性だ。楽天市場の購買データだけではなく、例えば『Rakuten TVでどんな動画を見ているか』『楽天GORAでいつゴルフ場を予約したか』など、ライフスタイル全般を網羅するデータを、楽天市場におけるレコメンドに使うことができる。こうしたサービス間のシナジーを効かせたアルゴリズムが作れる点が差別化ポイントだろう」
——生成AIによる最適化を突き詰めすぎると、体験がコモディティー化していく恐れもある。
「AIが『あなたにはこれだけが最適です』と一つの答えだけを提示すれば、利便性は上がるが、ウィンドウショッピングのようなワクワク感、つまり楽天市場のコンセプトである『ショッピング・イズ・エンターテインメント』という要素がどんどん崩れていきかねない。楽天市場には5万以上の、特定のカテゴリーのプロである店舗がいるわけで、その『プロの知恵』をそれぞれエージェント化して、その集合知である『スーパーエージェント』が、Rakuten AIのコンシェルジュとして買い物をサポートする、といった方向性に舵を切っている。これこそが競合他社や、汎用的なAIツールなどとは違う、楽天の差別化要素になるはずだ」
「ただ、AIに頼り切ると『フィルターバブル』(アルゴリズムがユーザーの興味・関心に基づいた情報ばかりを表示させるようになり、異なる情報や意見などが見えなくなる現象)が起きかねない。そうなると、楽天市場内の回遊率が減ってしまう恐れもある。特定の店舗が上位を独占しないようにしたり、新しく参入した店舗や商材を見つけやすくしたりするロジックを入れている」
——成果は出ているのか。
「Rakuten AIに関しては、購入決定までの時間が約43%短縮、平均注文額が約41%向上するなど、すでに成果が出始めている。ただ、『1回使ってみたけど』というユーザーが目立つのが正直なところだ。精度の問題もあるが、ビジネス的な観点からいうと、小さな画面で商品を選ばせることにハードルがある。また、ユーザーからのフィードバックで分かったのは、『決め打ちで買い物をしたい』人にはマッチしないということ。一方で『40代後半の男性がホワイトデーのお返しをする場合は何がいい?』というような、検索窓に打ちにくい『壁打ち』をしたい時は便利かもしれない。ただ、そういう使い方にユーザーは慣れていないので、そこへどう持っていくかがチャレンジだろう。チャット画面においてはユーザーのニーズを何度も聞かないといけないわけで、その行為に対してユーザーが『わざわざ質問するのは面倒だ』となりかねない。この手間をいかに軽減させながら、会話をユーザーが欲しいものに落とし込めるか、これをUXで実現できれば」
——広告商品はチャット画面でどのように表示するのか。
「今までのRPPとは違うロジックになると思っている。ただ、パソコンからスマートフォンに移行したときと同じように、広告の出面は少なくなってしまう。そこの『見せ方』も含めて、最適な広告商品を考えなければいけない。『PR』マークが付いた商品がチャット内で表示されたとして、それがユーザーのニーズにマッチングすれば違和感を持たれないだろうが、『これは広告だよね』と明らかに分かる商品は敬遠されてしまう。そこのギャップをいかに無くすかが大事になってくる」(つづく)