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【揺れる景表法⑨姿なき消費者】 一般消費者は「隣の職員」、消費者被害、実態どこに?

2019年 6月 6日 13:15

 景品表示法には「一般消費者」という言葉がよく出てくる。だが、景表法に「事業者」の定義はあるが「一般消費者」のそれはない。また違反とした広告等で、騙され、被害を受けた人がどれだけいるのかは実際には分からない。消費者庁が言う「一般消費者」は、誰であり、どこにいるのか。

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 「続けたいから、いつ販売再開するか教えて欲しい」「あの商品は私にはよかったのに残念」。「葛の花事件」をめぐり、消費者庁の調査を受けたスギ薬局は、処分を前にお詫び社告を掲載し、店頭から商品と表示物を撤去した。その時、同社に寄せられた声だ。消費者からは数十件の問い合わせがあったが「8割は販売再開を求める声」(スギ薬局)という。反響の大きさに「急遽表示を見直し、6月後半に再開した」(同)。

 その後の経緯は多くの事業者が知るところ。16社に対する一斉処分が行われ、消費者庁は「食品で痩せるはあり得ない」(表示対策課)と発言。再び商品は撤去される。スギ薬局は当時、「広告問題は仕方がないが、支持してくれる方が多かったので残念。報道の影響もあり『葛の花』は(商品として)死んだ」とコメントしていた。

 波紋は続く。適格消費者団体は処分企業に対する返金要請に動き、これに応じた12社の返金人数は1万6000人(今年3月末)。要請した団体は、「一定の消費者被害回復がなされた」と評価した。

 処分はあくまで表示問題だ。消費者庁自ら作った制度に沿って根拠を評価。製品に瑕疵はない。

 だが、「葛の花」だけでなく、機能性表示食品の機能を全否定した消費者庁の発言は、むしろ消費者に、「機能性は怪しいもの」と印象づけ、制度本来の姿を見えにくくしたのではないか。消費者庁から消費者被害の根拠が示されることもなかった。また、返金を求めた消費者は、本当に表示を誤認した消費者といえるだろうか。

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 午後5時頃、晩御飯の支度のため主婦がスーパーに出向く。「帰って料理の支度をしなければならない。子供は”ごはんまだ”とせかすだろう」。気持ちが焦る中、3個500円のパイナップルの缶詰が目に入る。「デザートにちょうどいい」。だが、帰って開けてみたらその缶詰は、リンゴのシロップ漬だった。改めて表示を見ると「Pine style Apple(パインみたいなリンゴ)」。実際に起きた事件だという。

 公正取引委員会幹部によって書かれた著書「やさしい景表法・解釈と実例」に紹介されている。

 ここでは一般消費者像を、「高卒の一般家庭の主婦」と説明する。多くの消費者は、高卒以上の知識水準にあり、専門知識はないが買物経験者であるためだ。

 その主婦が「午後5時頃、市場で買物をする時に間違うような表示が不当表示」と解説する。「『市場』としたのは、消費者モニターに広告を見せて意見を聴くことがあるが、広告を批判的に見る場合、誤認は起きない(ため)。少しでも安く、良い物を買おうという気持ちで広告を見た時の心理状態を基準にした」(同著)。

 「午後5時頃」というのは「晩御飯の支度で少し気が焦り、若干不注意になっている状態を前提にした」(同)という。

 別の公取委幹部による景表法の解説書は、その一般消費者像について、「商品にさほど詳しい情報・知識を有していない通常レベルの消費者。ごく一部の消費者のみが勘違いや無知により誤認を生じるものは含まれない」とする。利用者の範囲が限定される場合は、その需用者を一般消費者とみる。翻って、消費者庁がイメージする一般消費者は、誰なのか。

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 「周りの職員に消費者の代表、という形で聞いてください」。ある自治体で表示違反の判断に迷った職員が消費者庁にその照会した際、同庁にこう言われたという。

 であれば、消費者庁にとって「一般消費者」とは、同じ庁内にいる仲間の「職員」ということになる。法執行の職になくとも、それは同じ庁内。法知識に通じていることは想像に難くない。当然、互いの職責も認識しており、取締りを前提とした問いかけを承知の上で広告に接することになる。

 だが、「隣の職員」は、「午後5時頃、市場で買物をする高卒以上の知識を持った主婦」といえるだろうか。「商品にさほど詳しい情報・知識を有していない消費者」ともいえまい。その中で、広告の是非を判断、取締りに対する確信を深めているとすれば、あまりに独善的といえよう。(つづく)


 
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