TSUHAN SHIMBUN ONLINE

インターネット・ビジネス・フロンティア株式会社
記事カテゴリ一覧

先進各社にみるAIの使い方 AIを通販にどう活用?

2025年 6月 5日 12:00

  AI(人工知能)のビジネス活用が各社で進みつつある。諸業務をAIを使って工数を削減しつつ、より高い成果を上げることに成功したり、AIを顧客対応やサービスに活用して目新しくユニークな取り組みを行う事業者も出てきている。とはいえ、AIをどのように使えばよいかと戸惑う事業者も少なくない。AI活用で先行する事業者の活用方法をみてみる。



 
シバデン
LPを数時間で作成

 
 オリジナル家電を販売するシバデン(運営は三ツ谷電機)は、自社で商品を企画・開発し中国で生産、ECで売るというD2C企業。楽天グループの仮想モール「楽天市場」には2005年に出店、順調に売り上げを伸ばしてきた。ロングセラーとなっている電動歯ブラシをはじめ、最近は卓上の焼き鳥コンロや、カップ酒や徳利を簡単に湯せんできる電気酒燗器などがヒット商品となっている。

 同社は企画・開発からサイトのページ作成、さらには顧客対応まで数人の社内リソースだけで対応している。直近では楽天市場の有名店舗が講師となり、他の出店店舗にネット販売に関するノウハウを伝授する企画「NATIONS(ネーションズ)」でAI講座の講師を務めるなど、AI活用の重要性について発信をしている。 

 生成AIの活用は「さまざまなアイデアやヒントを得るために使っている」(三ツ谷大氏)という。同社の場合、ニッチ商品や「お悩み解決系」商品を多数扱っており、ChatGPTにペルソナを考えさせたり、商品ページやキャッチコピーの案を提案させたり、広告バナーのデザイン案を作らせたり、さらにはユーザーレビューに対しての返信文面を作成させる、といった使い方をしている。

 同社の場合、独自の「カスタムGPT」をもとに、基本的な商品情報を項目別にChatGPTへ渡すだけで、商品ページの構成が生成されるだけではなく、その内容をもとにキャッチコピー、サブコピーを生成できるようにしている。

 例えば、携帯用電動歯ブラシのランディングページ(LP)とキャッチコピーを生成する場合、まずは基本的な商品情報を、項目別にChatGPTへと渡すことからスタートする。内容は「理想の顧客」「想定する顧客」のほか、価格や楽天市場内での同製品のポジショニング(楽天ランキング1位、年間3万台の販売実績)などといったものだ。

 こうした情報を生成AIへ与えると、すぐにLPが生成される。あらかじめ指示しておいた「セールスレター」のテンプレートにのっとった文面だ。「Problem(問題)」「Affinity(親近感)」「Solution(解決策)」など、項目別に文章が作られる。

 LPの内容から、キャッチコピーとサブコピーを生成。楽天市場向けキャッチコピーとして、目的別にいくつかの案がChatGPTより提案される。さらには、LPの内容をもとに、具体的なペルソナ像を作らせることも可能だ。

 三ツ谷氏は、ChatGPTより提案されたLPやキャッチコピー案をブラッシュアップ、実際のページに反映させている。これまで商品ページ作成に1週間かかっていたものが、数時間に短縮することができたという。

 また、自分でキャッチコピーを作る際にも「これまでは10パターンくらい考えた上であれこれ悩んでいたが、ChatGPTに点数をつけさせ、精度を高めることにも使っている」(三ツ谷氏)。レビュー返信についても、返信専用のカスタムGPTを作成。同社楽天市場店に寄せられたレビューをコピー&ペーストすると、顧客に寄り添った内容の返信文面を考えてくれる。

 三ツ谷氏は「自分でページを作成すると、どうしても画像に頼りがちで文章が少なくなってしまう。ChatGPTを使えば文章を考えなくて済むのが大きい」と話す。とはいえスマートフォンから注文するユーザーが大半のため、文字が多すぎるとページを読んでもらえない、ということも考えられる。そのため「ChatGPTが生成したものが満点とは思っていない。必要なものとそうでないものの区分けは必要になってくる」。

 生成AIを使うことのメリットは、「作業量を減らす」ことだけではない。三ツ谷氏は「自分だけでやっていると、50歳のおじさん感覚から抜け出せない面もある。楽天市場ユーザーには20代も多いし、ChatGPTにペルソナをしっかり伝えれば、若い人向け文面やキャッチコピーも考えてくれる。それだけではなく、セグメントによってメールマガジンを出し分ける場合も、それぞれのセグメントに寄り添った文面を生成してもらえるのではないか」と語る。

 生成AIにページやキャッチコピーを考えてもらうことで、コンバージョン率に変化はあるのだろうか。三ツ谷氏は「まだ測定していないので、効果が出るとしてもこれから」とした上で、「広告バナーに関してはかなり成果が出るのではないか」と期待する。同社は商品数が多くないため、楽天市場内にバナー広告を出稿する際も同じ商品を選ぶことが多く、デザインが似たりよったりになることが多かったという。「広告内に盛り込みたい要素が多すぎて『文字が渋滞』することも少なくないが、ChatGPTはそういったときもきちんと指摘してくれるし、『もっとこの文面の文字を大きくしてくれた方がいい』などと指摘してくれる」(三ツ谷氏)。

 生成AIの普及はECをどのように変えていくのだろうか。三ツ谷氏は「何かを買いたい人が生成AIに相談するユーザーが増えている。そういった際、生成AIにピックアップしてもらえるような商品ページの作り方、さらには『情報のばらまき方』が重要になってくるだろう。今までのようなキーワードだけのSEO対策では間に合わない」と指摘する。つまり、質の高い一次情報を増やすことで、生成AIに好かれるようなコンテンツを作成しなければいけないわけだ。

 言うなれば「生成AI向けSEO対策」。三ツ谷氏は「例えば『3泊の旅行をするためのバッグが欲しいから、楽天市場で探して』とユーザーが生成AIに相談したら、商品ページだけではなく、コンテンツやレビューなども収集した上で『トップ3』を推薦してくるはず。だから、コンテンツの作成が大事なのはもちろん、レビューに対する返信も大事になっていくのではないか」と予測する。もちろん楽天市場対策だけにとどまらない。自社サイトの商品を推薦してもらうためには、例えばSNSやnoteで情報を発信したり、ユーチューブに動画を投稿したり、アフィリエイターに情報を掲載してもらったりといった努力も必要になってくるわけだ。 

 三ツ谷氏は「EC企業は昔ながらのSEO対策に凝り固まっているところが多いが、固定観念から脱却すべきだ。少し前までは『PCの方がスマホより買いやすい』と思っている店が多かったが、今はほとんどの人がスマホから買っている。だから今後は『スマホに音声入力しただけや、AIに対応した検索の仕様で買い物に到達する』世界に対応しなければいけない」とEC企業に呼びかける。
 
QVCジャパン
AIが商品を紹介

 通販専門局を運営するQVCジャパンはライブコマースでAIに商品を紹介させる取り組みを行っている。

 同社では同局の通販番組に出演するショッピングナビゲーター(番組司会者)や商品の製造元の担当者らが商品を紹介するライブコマース番組「QVC POP‐UP Live」を定期配信しているが4月23日の午後8時から配信した約1時間半のライブコマースでNTTドコモが開発したAIの仕組みを活用して作成したアバターAI「グルmetaQ(グルメタキュー)」を登場させた。

 同アバターAIは「グルメ好きな研修中のQVCジャパンの若手社員」をコンセプトにパーソナルな情報などを設計し、さらにライブコマースで紹介する商品についてスペックや特徴、展開中のキャンペーン情報などを事前に学習させ、商品に関する説明や各種サービスの紹介など様々な受け答えができるようにした。

 ライブコマースでは一緒に出演するメイン進行役のショッピングナビゲーターの石橋尚弘氏がモニター内の「グルmetaQ」に対して、様々な質問をしながら、永谷園の「フリーズドライご飯8食セット」(税込4979円)や井村屋の長期保存が可能な備蓄用羊かん「えいようかん30本入り」(同3826円)、ドトールのコーヒー「ハワイコナブレンド18P」(同2498円)の特徴などを説明した。

 「フリーズドライご飯」を紹介する場面では、石橋氏の「この商品を紹介してください」「おいしかったですよ」などの問いかけに対して「グルmetaQ」は「炊き込み五目ご飯、カレー味ご飯、ピラフ味ご飯、チャーハン味ご飯はそれぞれ2つずつ入っています。色々な味を楽しめますよ」「それはうれしいです。さすが永谷園、美味しいご飯を簡単に楽しめますよね。色んな味があるのでぜひほかの味も試してみてくださいね」などと返答。「防災の観点では何セット買えばよいか?」という視聴者からその場で寄せられた質問にも「具体的な必要数はご家庭の人数や備蓄期間によりますが、1人1日3食と考えると一週間分で少なくとも3セットを目安に考えるとよいでしょう」と的確に回答した。

 雑談としての視聴者からの質問にも回答。例えば、「こしあんと粒あん、どっちが好き?」との質問には「こしあん派です。滑らかな食感がたまりません。もちろん、粒あんも好きですがこしあんの口どけはやっぱりいいですよね」などと答え、「グルmetaQ」とともに出演した石橋氏は「聞けることが思った以上に多い。素晴らしい。私よりも(説明・コメントが)的確なのでは(笑)」と「グルmetaQ」の受け答えの精度や内容に驚きを見せた。また、視聴者から寄せられるコメントも通常よりも多く盛り上がりをみせた。

 アバターAIを使ったライブコマースの取り組みを担当した同社の古谷道実氏、濵田成就氏によるとテレビ通販やECではリーチできない顧客へのタッチポイント作りや顧客の買い物体験向上、新しいビジネスモデル構築の可能性を探るため、インターネット上の仮想世界・仮想空間であるメタバースを活用してECを展開する取り組みなど、これまでも最新技術を活用した試みを積極的に実施してきたが、その一環としてAIを活用した取り組みを進めることにし、「通販サイトでAIアバターが質問に受け答えするという形もあると思うが、ライブでテレビ通販を行う当社としては動画、ライブで活用してどのような成果を得られるのか試してみたい」(古谷氏)と将来的なテレビ通販での導入の検討なども視野に入れるための各種データの獲得や運用方法の確認のほか、定期配信中のライブコマースについても出演者の一部をアバターAIに置き換えることでフレキシブルに配信が可能になるなどの効率化につなげられないかなどの検証を行う狙いなどから、ライブコマースでの展開を行うことにしたという。

 同社では初の取り組みとなったAIを活用したライブコマースについて「人のナビゲーター並みにきちんと商品紹介ができるということ。また、商品紹介だけでなく、きちんとパーソナルな質問にも受け答えでき、AIがここまでできるというところを見せたかった。そういった意味では手ごたえは感じた」(濵田氏)とし、実際に当日の配信では「グルmetaQ」への様々な質問が多く寄せられたほか、「AIってここまで発達したんだなと感動」などのコメントも活発に投稿され、「通常のライブコマースの平均値に比べて、リアルタイム視聴者や寄せられたコメント数などは3倍以上となった。お客様の関心が高いことが確認できた」(古谷氏)とした。なお、ユニークな試みで既存顧客の関心が高かったほか、NTTドコモが開発したAI技術を活用した取り組みだったこともあり、NTTドコモの公式SNSで今回のライブコマース配信を告知したことも奏功したようだ。

 一方で実数は明らかにしていないが肝心の売り上げは想定を下回ったよう。「お客様にはAIを使った配信を楽しんで頂けたと思うが、『モノを買ってもらう』にはどうすべきかをもっと考える必要がある」(同)とECへの貢献については改善点が残る結果となったようだ。今後のアバターAIを出演させたライブコマースの配信時期は未定としながらも、実施したい意向で「演出や見せ方を改善すれば成功への可能性はある」(同)として紹介する商品の選定のほか、より注文に促すように演出・構成を工夫して、「AIでモノを売るため」のやり方を検討、最新技術を活用した取り組みを有効にビジネスにつなげるための施策の検証を進めてきたい考え。

 
楽天 通販のよみもの 業界団体の会報誌「ジャドマニューズ」 ECのお仕事プロ人材に 通販売上高ランキングのデータ販売