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【トクホ 終わりの始まり 5.しらける業界㊤】

2021年 5月13日 12:30

初の許可も疾病名明記に「?」

 「しらけ鳥 飛んでいく 南の空へ」。昨年12月に逝去したコメディアン小松政夫に「しらけ鳥音頭」という流行歌があった。「機能性食品」から名実ともに矮小化され、スタートした「特定保健用食品(トクホ)」。業界は当初、冷ややかな対応を見せた。ようやく誕生した第一号は、さまざまな点でクエスチョンマークが付く製品だった。

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 トクホが正式にスタートしたのが91年9月。

 第一号の製品が誕生したのが、約2年を経過した93年6月のこととなる。業界各社にとっては臨床試験が必須の新しい制度で不慣れ。行政側は初の許可で慎重に審議したと考えられるが、それにしても長い。当初は申請時に、日本健康・栄養食品協会に資料提出。予備調査を行うなど、煩雑な手続きがあり、企業側の手間ともなっていた(この仕組みはその後廃止される)。

 さらに紆余曲折を経て、トクホ第一号として許可された製品は、トクホという制度のあり方に疑問を抱かせるものだった。

 初の許可を得たのは資生堂の「ファインライス」(写真)。さらに森永乳業の「低リンミルクL・P・K」の2品目。いずれも疾患を持つ人を対象に、特定の成分を低減させた製品だ。化粧品の最大手が、お米でトクホの第一号を取得したというのも意外だが、表示にはさらにインパクトがあった。

 ファインライスの関与成分は「米グロブリン」。許可表示は「ファインライスは、米の中に含まれるグロブリンを低減してあるので、普通の米の代わりとして、米グロブリンが関与する米のアレルギーによるアトピー性皮膚炎の者に適する」。

 食品をめぐる表示制度に詳しい方であれば、衝撃的な表示であろう。トクホに「アトピー性皮膚炎」と疾病名がはっきりと記されているからだ。「低リンミルクL・P・K」にも「慢性腎不全の者に適する」と疾病名が明記されている。

 これまでの連載で指摘した通り、機能性食品からトクホへ至る議論で最も先鋭的な問題は医薬品の効能効果とのすみわけだ。「特定の保健の用途」という玉虫色の文言により、大きくコンセプトは後退したが、何とか社会実装にこぎつけた訳だ。

 ところが、第一号には堂々と「疾病名」が明記される。一体、これまでの議論や取り組みは何だったのと首を傾げたくなろう。恐らく、米と牛乳は薬機法の適用外である「明らか食品」という理屈であろう。しかし、制度の主旨としてどうか。

 また製品のタイプも想定外である。機能性食品にせよ、トクホにせよ、ある関与成分が「生体調整機能」を発揮することを狙ったものだ。

 しかし、第一号の2品目は、特定の成分を取り除くことを目的としている。プラスではなく、マイナスの食品だ。

 対象者も疾病者で、そもそも健康な人をターゲットとしていたコンセプトからも外れる。

 両製品とも特別用途食品のうち「病者用食品」にカテゴライズされるべき製品であろう。実際、「ファインライス」は許可から4年後の97年に「病者用食品」にスイッチする。その後も医師などを通じ、米アレルギーの患者に紹介され、支持されたが2007年に販売中止となる。

 とはいえ、これがトクホという制度を代表する第一号製品だったかは、首を傾げざるをえまい。むしろ混乱と憶測を招いたと言えよう。実際、このタイプのマイナス食品は、その後トクホでは影を潜める。今回の疾病リスク表示の拡大検討でも「減塩」などの表示は、「トクホになじまない」と一蹴されている。

 ではなぜ、記念すべき第一号になったのか。ファインライスの開発には、機能性食品の推進役の一人だった東京大学農学部の教授などが関係しており、このことも影響した可能性もあろう。

 スタートからコンセプトは大きくブレる。さらにトクホの苦戦はなお続く。製品が出ないからだ。(つづく)


 
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