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法運用、組織体制に課題<参上!景表法四人衆 “消費者庁景表法検討会”を検討する!!其之十七 「消費者庁」を考える> 安全弁効きにくい構造

2023年 1月12日 10:30

 消費者庁は昨年末、ステルスマーケティング規制など景品表示法の改正を視野に入れた報告書案を示した。本紙では、「景品表示法検討会」に並走する形で同法に関係する諸問題を討議する座談会を開催。16回に渡り連載してきた。最終回では、法執行を担う消費者庁の組織体制、執行に欠かせない視点について話し合う。
 











属人的な法運用社会常識とかい離

 ――報告書案は景表法の制裁強化、ステルスマーケティングへの規制導入など規制強化の側面が強い。

 三郎「景表法は市場環境の変化、悪質層への対応を錦の御旗に法改正を繰り返し、不実証広告規制や課徴金の導入など著しく強化された。改正でさらに武装は強力となる。しかし組織や運用の課題も見直さねば、結果的に景表法と消費者庁が肥大、成長してマーケットが委縮、衰退することになりかねない」

 ――どのような問題があるか。

 三郎「担当者による裁量行政だ。とくに消費者庁は各省庁の出向者で成り立っており、担当は2、3年で変わり、基本的に出向元に帰る。いわば腰掛だ。事なかれ主義、古巣の省益確保、独走、と人により、過ごし方はさまざまだ。一番の問題は法解釈や前例を顧みない暴走だ。出向者は任期が終われば古巣に戻る。一方で、処分の前例が残り法解釈はより厳しくなる。それまで担当の法律や業界に知見や知識もない人が、出向先で自分の主義主張で裁量行政を展開し、事業者が振り回される。これでは民主国家とはいえない。法とは、執行者をも縛るものだ」

 太郎「組織がフラットすぎる。行政組織は通常、ピラミッド構造だ。実務を担う現場があり、段階を踏んだ決裁ラインを経て判断される。そこに知恵や常識が生じる。消費者庁は、『現場↓課長↓長官』でOKという垂直構造。長官が変われば考え方もがらりと変わる。キリンビバレッジに対する処断も庁内でもめたようだが、現場は執行件数を増やしたいし、注目される事件を手がけたい。強い行政執行権を担う官庁でありながら、安全弁の効きにくい構造は危うい」

 四郎「政治のグリップも効いていない。通常は最終的に大臣決裁になる。国会答弁があるため大臣も業務を熟知する。ただ、消費者庁は兼任。関心も薄く、長官決裁をほぼ自動的に了承する仕組みだ。一方で河野太郎大臣のようにアグレッシブな大臣がくると、あわてて動きだす」

 三郎「やはりかつての公正取引委員会のようにさまざまな背景・経験を持つ識者が議論して判断する仕組みが必要だろう。そうでなければ運用が属人的になり、社会の常識を法運用に反映させづらい」

 次郎「景表法を公取が所管していた当時は予算を取り、全国に消費者モニターを1000人ほど抱えていた。対象は、大半が一般の方。判断に迷う際どい不当表示案件は、モニターへのアンケートを行い、消費者意識と齟齬が生じないよう努めていた。消費者庁への移管後は制度がなくなり、消費者団体の意見が消費者代表になった」

「生協」というサンクチュアリ

 ――消費者庁による消費者行政を監視する機能として消費者委員会という仕組みはある。

 太郎「うまく機能しているか疑問だ。昨年9月には、消費者委の事務局長に生活協同組合(生協)の関係者が就任した。過去には生協関係者が消費者庁長官になった例もある。消費者委は第三者機関であるはずだが、こうした人事には違和感を覚える。流通事業者からすれば生協は競争事業者でもある」

 ――検討会では、合理的根拠の提出要求権限など適格消費者団体(適格団体)の権限拡大も議論された。報告書にも表示根拠の要求に関する権限が盛り込まれる公算が高い。

 太郎「報告書案は、みなし規定のある不実証広告規制と異なり、『相当の理由がある時』という条件付きではある。ただ、適格団体は、あくまで民間の団体。営業機密に関わる根拠情報などを提出するのは問題だろう」

 四郎「適格団体には、生協の役員が理事を務めたり、生協関連の所有するビルに事務所を置く団体もある。生協は過去に景表法の措置命令、総額39億円の下請法違反行為で勧告を受けたこともある。そのような事業者が役員を務める団体に客観性のある判断が行えるとは思えない」

 太郎「生協は生活協同組合法という法律があり特別扱いを受けている。旧大店法(00年に廃止)時代も生協はその適用を受けずいくらでも出店できた」

 三郎「生協はある意味で消費者運動の聖域だ。消費者団体に影響力を持ち、さまざまな省庁で政府委員も務めている。一方で流通大手の事業者。利益相反であり、ステマだ。戦後の左翼対策でこうした構図が生まれたのであろうが、既得権益であり、見直しの時期に来ている」

消費者被害の評価欠く執行

 ――今後の法運用に対する要望は。

 三郎「景表法違反がどの程度の社会的罰則を与えるべきものかも改めて議論する必要はあるだろう。例えば、キリンビバレッジに対する処分も、どれだけの消費者被害と捉えるべきか。メロン味でまあまあ美味しい、という層が大半ではないか。どの程度の売り上げ、購入者がいて影響を受けたのか。200円のジュースを買って文句を言う人がどれほどいたのか。事件の社会的影響のKPIも示さなければ不十分だ」

 四郎「現状の景表法のKPIは件数と、大きな事件を手がけたかという印象。事後であっても妥当性はきちんと評価するべきだ」

 ――運用の判断は変わってきているか。

 次郎「『著しい』のハードルは低くなっていると感じる。大企業を手がければ反響も大きく評価もされる。そうなるとキリンビバレッジのような事案の際は、ハードルが下がる面はあるかもしれない」

 三郎「景表法は被害が顕在化しているものを取り締まる法律ではなく、担当者の主観が先走ることがある。スシローのおとり広告のような案件は『よくやった』と腹落ち感があるが、優良誤認は表示全体から消費者認識を判断するため、評価が分かれるものがある」

 ――そのため公取のような組織が必要だと。

 三郎「外部の常識の目が入らないと、職員はどうしたって事件にしたい。やりたいというより、KPI上はやらなければいけない。何もしないと、今度は、消費者委員会あたりから『何もやってない』と突き上げをくらう。その意味では同情すべき点もある(笑)」

「時代の変化」捉えた法運用必要に 

 ――景表法は今の時代に対応できているか。

 太郎「景表法違反があたかも大罪かのような前提で運用は年々厳格化が進む。いずれ広告すること自体おかしいとなりかねない。今の時代、モノが余り、広告を打っても誰も見ないし買ってくれない。そのような時代になっていることに気づいていないのではないか」

 四郎「広告は単純に買ってくれということではなく、情報を伝達・公開する側面がある。そこはメリットでもある。これを考慮せず、事業者は誇大広告をするという前提で議論が進むのはおかしい。商品を作り、広告しないと売れないのは、資本主義の基本。誇大広告のみフォーカスするのはバランスが悪い」

 三郎「時代も変化している。マスマーケティングで広告を行い、小売店に配荷すればモノが売れる時代ではない。ウェブはし好に合わせた個別のマーケティングが行われ、消費者はそれぞれ全く異なる広告を見ている。購買行動も皆が同じ商品を欲しがるわけではない」

 四郎「ネット全盛の時代。商品を買う時にすべて検索し、比較し、一番安いところから買おうとする。消費者は自ら情報を取りに行くことができ、決して情報弱者ではない。むしろ広告だけ見て買う消費者は少ない。選択権は消費者の側にある」

 次郎「事業者の遵法意識も変化している。景表法の制定当時は、ニセ牛缶事件に代表されるデタラメな広告が氾濫していた。当時に比べ、広告も適正化されている。その中で景表法が行うべき取締りを考えてほしい」

 太郎「事業者も顧客と継続的な関係構築を図る企業、短期間に顧客から収奪することを目的にする企業に二極化している。悪質層をベースに法の網を細かくするとまともな前者の負担は増すばかりだ。むしろ後者を2、3年集中して取り締まり、問題事業者を激減させればいい。そうでなくても、コロナやウクライナ侵攻、少子高齢化の影響で原料高、インフレ、人出不足、消費低迷など経済活動の根幹が痛んでおり、経済の見通しは厳しい。景表法栄えて、国滅ぶになりかねない。また、ステマの問題でもきちんと議論されていないが、憲法で保障された『表現の自由』と景表法規制は、鋭く対立する緊張関係にある。護憲を標ぼうする左翼勢力が、表現の自由への制限を看過し、むしろ推進していることに強い違和感がある」

 四郎「消費者基本法は、『消費生活に関して必要な知識を習得し、必要な情報を収集する等自主的かつ合理的に行動するよう努めなければならない』と消費者の努力義務を定めている。消費者団体は弱い消費者の救済を訴えるが、消費者教育は進んでいない。過剰に擁護しすぎるのも問題だ。事業者が提供する製品やサービスに価値を認めて対価としてお金を払う。事業者と消費者は本来、対等。また、需要と供給のバランスでいえば、供給過多である今の市場では、消費者の方が力を持っている。消費者保護や教育も新しい考え方や取り組みが必要だ」



「件数はKPIではない」、表示で生じる齟齬解消が目的

<新井ゆたか消費者庁長官に聞く ステマ規制の執行方針>


 消費者庁は昨年末、ステルスマーケティング規制の報告書案をまとめた。近く「景品表示法検討会」報告書もまとめる。1月7日、日本通信販売協会(=JADMA)の賀詞交歓会に出席した新井ゆたか長官に今後の執行方針を聞いた。

 ――ステマ規制のKPI(執行件数)はどう考えているか。

 「本来、執行はゼロがよく、件数をKPIにしてはいけない。いけないというか、件数はKPIではない」

 ――ただ、現状は措置命令も件数が一つのKPIになっている。これを念頭に職員も動く。

 「KPIは定性的なものでは駄目で、数字が原則になっている。ただ、職員もそこを目指しているのではない」

 ――事業者に望むことは。

 「健全な商売をしてもらうこと。職員には、タックスペイヤーとしてその取り組みに1円でも注ぐことが納税者として納得できるのであれば予算を組んでいいと話している。事業者の皆様も同じで、全員が消費者であり、自分や家族がサイトから購入する時のことを必ず考えてほしい。そうすれば思想として社会は健全になるはずだ。裏をかき、一時的に儲かっても被害を受ける方がいるのは社会全体の利益にならない。被害者に友人や親族がいるかもしれない。社会がつながっていることを常に考えてもらいたい」

 ――健康食品に関していえば表示規制の対応など育成より規制に比重が置かれている。育成の部分はどう考えているか。

 「消費者庁の立ち位置は産業育成ではない。表示はコミュニケーションツールであり、景表法を含め、これに齟齬が生じないようにしていきたいというシンプルな理念と理解してほしい。そのためにルール化も必要だし、法的措置もある。ただ、規制が目的ではない」

                        ◇

 当日は、消費者庁の真渕博審議官(執行担当)も出席した。真渕氏は、ステマ規制のKPIについて、今後、表示対策課の検討案件とした上で、「始めからステマをターゲットに取り締まりを行うのは、なかなか難しい。多くは優良・有利誤認の調査過程で事後的に明らかになるのではないか」とコメント。「インフルエンサーによる通報などに頼らざるを得ない面もある」とした。

 
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