〈小林悠輔常務執行役員に聞く 「楽天市場」のAI戦略 ②〉 「『AI』を死語にしたい」、UX革新でAIコマース確立

2026年04月01日 14:29

2026年04月01日 14:29

 前回に続き、楽天市場におけるAI戦略について、コマース&マーケティングカンパニーCIO&CAIDOでコマース&マーケティングカンパニー開発統括部ヴァイスディレクターの小林悠輔常務執行役員に聞いた。


0401170058_69ccd0baaeafa.jpg ——ユーザー行動の分析も重要だ。

 「特にあらゆるジャンルを扱う楽天市場においては、フリークエンシー(1人のユーザーに対して広告が表示された平均回数)や、定期的に買う商品を考慮する必要があるし、例えば2年前に購入した商品をアルゴリズムに組み込むか、というのはジャンルによって変わってくる。これをいかにパーソナライズ化できるかが鍵になってくるだろう。定期的に購入する商品であれば、チェックアウトまでAIで済ませてしまったり、良く買う商材であれば『定期購入の方がお得』と勧めることもできる。また『たまに購入するけれども価格が高い』商品については、個人の趣味し好が大きく関わってくるわけだ」

 ——店舗のSEO対策も変わってくる。

 「楽天市場の検索で上位に表示されるように、SEO対策としてさまざまな工夫をされてきたと思う。これからは、AIコンシェルジュにレコメンドしてもらうための方策も必要になってくる。最近私が店舗に伝えているのは『検索アルゴリズムが完全に変わった』ということ。これは、ユーザーの意図を理解した上で、より関連性の高い結果を表示させる『セマンティック検索』を導入したことが大きいわけだが、店舗が作っているコンテンツがより重要になっている。単純に商品名・価格を出すだけではなく、商品の売りになるアピールポイントや商品の詳細情報をどこまで書ききれるか。その商品を買ったことで、どんなメリットがユーザーにあるのか、こういったことを店舗がどれだけデータ化し表現できるかが大事になる」

 ——AIにレコメンドしてもらうためには何が重要なのか。

 「AIが『価値ある情報』と判断すれば、それがAIエージェントのアルゴリズムに組み込まれる。そのため『コンテンツ生成を頑張る』ことが重要だが、そのコンテンツを作る際もAIが手助けとなる。もう一つ大事になってくるのが『コンテンツのマルチモーダル』だろう。これまではテキストベースでコンテンツを作っていたので、画像の役割は『見栄え』や『視認性』だった。ただ、今後は画像の中身も分析対象となる。さらには動画も肝になってくるはずだ。価値ある動画を作り、いかに検索アルゴリズムやAIエージェントのアルゴリズムへ組み込めるか、ということになる」

 ——AI活用で店舗の業務効率はどの程度改善しているのか。

 「当社では店舗が活用できるツールとして『Rakuten AI for RMS』を提供している。店舗運営業務にフォーカスしたもので、もちろん店舗によって利用度合いは濃淡があるわけだが、利用している店舗に関しては、工数削減や業務改善など、確実に効率が上がっているようだ。例えば『RMSの使い方が複雑すぎて良く分からない』という場合、店舗向けのマニュアルはあるのでだが、数千ページあるので該当箇所を探すのは労力がかかる。しかし、同ツールならチャットで質問をすればマニュアルの中から知りたい情報を教えてくれるわけだ。また、チャットツール『R—Messe』や顧客レビューに対する返信に関しても、AIを使えば省力化できるのはもちろんだが、顧客対応への店舗の心理的な負担を取り除くという点でも非常に大きいと考えている」

 「人手不足や業務過多に悩む店舗は少なくないが、AIはそういった悩みを解決することができる。例えば、データ分析に1日2時間使っているという店舗は少なくない。スマートフォンのRMSアプリからAIでデータ分析できるようになれば、通勤途中にタスクを終えることもできるわけだ。今年中には、単純な数字分析だけではなく、具体的なアクションの提案までできるようにしていきたい」

 ——生成AI時代において、今後課題になってきそうなことは。

 「楽天市場の差別化ポイントは、自動販売機スタイルではなく、さまざまな個性ある店舗の集合体ということだ。当社としては、AIの活用で労力を使わず店舗の商品ページを制作してもらうとともに、どれだけパーソナライズ化を進められるか、という点が鍵になってくる。その一方、危機感としてあるのが、先ほども説明したフィルターバブル。このせめぎ合いに関して、どうバランスを取るか、ということになる。例えば、型番商品なら複数の店舗が販売しているわけで、『AIエージェントがAという店舗の商品ばかり勧めて、価格の安いB店舗の商品は表示しない』ということになったらアウト。店舗間のフェアネス(公平性)をどう担保するか、というのも解決すべき点だろう。まだまだ課題はあるが、私が目標としているのは、『3年後にAIという言葉がもはや意識されない死語になっている』こと。ツールの一つというか、機能の一つというか、『AIを使っている』ことをあえて認識しなくても済む、という世界にしたい。現状では、今年の新春カンファレンスにおける三木谷の言葉のように『使い倒す』という意識がないと難しいので、そこをどう改善していくか。引き続きUXの改善に取り組むとともに、店舗の活用事例を横展開していくことも大事だ。『横のつながり』が楽天市場の強みなので、店舗のネットワークを活用した普及活動にも取り組んでいきたい」

 ——エージェンティック·コマースは普及するのか

 「日本で早期に普及するかどうかはユーザー次第であり、不透明な部分だと思っている。アメリカの市場と日本の市場の違いは『日本人は効率だけを求めていないことが多い』という点だ。『日本人に最適化されたUX』にトライしないといけない。試行錯誤しながら『ショッピング・イズ・エンターテインメント』を、さらなる高みへと昇華させていきたい」(おわり)

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