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【楽天・野原彰人執行役員が語る“2019年の楽天市場”】 変化に対応し新規客開拓、消費者から選ばれ続ける売り場に

2019年12月26日 14:00

 楽天が運営する仮想モール「楽天市場」では、決済や配送など、サービス面の統一性を高めている。特に「送料無料となる購入額の全店舗統一」を打ち出したことは大きな反響を呼んだ。新施策にはどんな狙いがあるのか、そして店舗の反応は。2019年の取り組みを野原彰人執行役員に振り返ってもらった。
 














 ――2019年はこれまでの戦略を大きく転換する年だった。

 「ここ数年、ユーザーが変わってきている実感がある。以前は『ネットでの買い物なので、制約や限界がある』という点を理解した上で、楽天市場で買い物をしてくれていた。ただ、注文媒体がパソコンからスマートフォンになって、店舗の顔が見えにくくなってきたため、ロイヤルな顧客が育てにくくなってきている。そうなるとユーザーにとっては楽天も競合も変わらないから、『モールとして決済や配送などに統一性がない』という弱みは修正しなければいけない。一方で今後の消費活動は『(買うことの)意義や意味』を追求する方向に進むと思う。その時に『A店ではなくB店で買う』理由が相対的にクローズアップされる。そのためにも店舗の個性を引き出すことは今後も続けていく」

 ――特に「送料無料となる購入額を3980円で全店統一する」施策に関しては、大きな路線変更だ。

 「送料が無料ではないのは理解しているが、コストとユーザーの反応とのバランスを取った額だ。沖縄や離島への配送や酒類の扱いなど、お声を受けて、すでにチューニングした部分もあるが、今後もまだ変えていく余地はあるかもしれない」

 ――自社配送サービス「楽天エクスプレス」に関しては、店舗からの集荷も行うようになった。

 「店舗から期待の声は大きく、特に集荷への関心は高い。なるべく早く店舗の要望に応えられるよう、物流網を整備していく」

 ――商品画像に書き込むテキスト要素を減らすことを求めるなど、モール内で販売する商品画像のガイドライン必須化を進めた。

 「複数回行っているユーザー調査では、画像に書き込みが多いものを嫌い、シンプルでわかりやすい画像が好まれる傾向がある。ユーザー目線では、商品の探しやすさがかなり改善され、店舗への流入が増えており、長期的にみれば店舗に還元されると思っている」

 ――ルール違反や規約違反を犯した出店店舗に点数を付与し、累積点数によって罰則を課す「違反点数制度」についても議論があった。

 「『楽天市場なら安心してお買い物ができる』。そのようにユーザーに信頼される場でありつづけるというのが、この施策の意図。同制度を始めたことで、ユーザーの満足度は確実に向上している。2019年2月に制度を改定した。これまでも、例えば、関連する法規制を知らなかったなど、故意の違反でない場合には、点数を課さず注意にとどめるような運用を行っている。知らなかった点は運営現場に持ち帰ってもらえるよう、改定後は新たに講習を設けている」

 ――店舗とのコミュニケーション強化策としては、出店者との意見交換・説明会「楽天市場タウンミーティング」を順番に47都道府県で実施している。

 「楽天市場は現在約4万9000もの店舗に参画いただいているが、状況は店舗ごとに異なる。だからこそ対面で店舗の多様な声を伺う機会は重要であると改めて感じている。今後の計画を考えているところだが施策は継続したい」

 ――「送料無料ライン統一」に関しての反応は。

 「楽天市場への想いが強い店舗が来ており、厳しいお声も含め、色々なご意見をいただいている。売り上げデータに基づいて送料や価格をチューニングして採算を取る方法をアドバイスすれば、納得してもらえるケースも多々ある。店舗向け動画講座『RUx』で具体的なプロセスをお伝えしていきたい」

 ――沖縄・離島に関しては購入額のラインを引き上げたが、運賃は北海道などの遠隔地でも高くなる。その他の地域でラインを引き上げる考えは。

 「店舗からそういう意見があるのは事実。引き続き対話を重ねて、お声を受け止めていきたい。多くの人が納得できる、最大公約数的なルールを店舗とともに作っていきたい」

 ――新ルールに反対する声も目立っているが。

 「お声はしっかり受け止めていかないといけない。同時に中長期的にユーザーから選ばれ続ける売り場にしていくことも、当社の使命。新ルールをふまえて運営戦略を再考いただくことは、短期的に負担がかかるとも理解している。長期的には店舗により多くの利益を還元できると考えている。ぜひ一緒に実現していきたい」

 ――今回の施策に関して、何らかの意見を表明していない店舗が大多数なので、実際にどう受け止めているのか分からない面もある。

 「新施策を開始して離反する店舗が出るかどうか、売り上げが下がるかどうかで分かるはずだ。商品価格を安くして、送料を高く徴収していたような店舗は苦しくなるが、それは消費者を欺くような手法だと思っているので、適正な環境になると思う」

 「ある店舗の場合、送料無料となる購入額を5000円としていたものを4000円に下げるという実験を10月から実施したところ、売り上げや顧客数が前年同期比で大幅なプラスになった。消費増税後であることも考えると、大きな成果だと思う」


 ――公正取引委員会がプラットフォーマー規制に動いている。今回の施策が「大規模な小売り業者が納入業者に負担を強いている=独占禁止法の優越的地位の乱用にあたる」とみなされる恐れもあるのではないか。

 「議論はあると思う。ただ、ユーザーから売り場として選ばれなければ意味がないし、モールの流通額を伸ばして店舗にも利益を享受してもらうための施策ということは強調したい。ユーザーの選択肢が増えている中で、手を打たなければ国内の小売り企業は駆逐されてしまう」

 ――今後の展望は。

 「ユーザーの意識が変わってきていることを、店舗に引き続き伝えていきたい。ギャップを埋めて共通認識を持ち、その上でもう一度新規を開拓していく必要がある。当社がマーケティングするだけではなく、店舗とユーザーと積極的にコミュニケーションを取ってもらえる場づくりがよりできるようになれば、楽天市場はもっと強くなる。『ウォークトゥギャザー』の精神でユーザーの利便性向上に向けて店舗と共に歩んでいきたい」
 
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