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「送料無料ライン統一」で「楽天市場依存」どう判断、公取委が独禁法違反で調査開始か

2020年 2月 6日 14:00

 楽天が運営する仮想モール「楽天市場」が3月18日に導入を予定している、送料無料となる購入額を税込み3980円で全店舗統一する施策に関して、1月29日に公正取引委員会が調査を開始したとの報道がなされた。同モールの一部出店者が結成した任意団体「楽天ユニオン」が独占禁止法の排除措置命令を求める措置請求書を提出したことを受けたもので、同施策が独占禁止法に違反するかが焦点となっている。公取委の対応は新しいビジネスモデルの行方に影響を及ぼすとみられ、どのような判断を下すか注目される。(写真は報道陣の質問に答える楽天の野原彰人執行役員㊨)


 







 「店舗の成長につながることについては、例え政府や公取委と対峙(たいじ)しようとも、必ず遂行する。なぜなら、心の底から皆さんのためになると思っているから」。1月29日に開催された、楽天市場の出店者向けイベント「楽天新春カンファレンス2020」において、三木谷浩史社長は会場の店舗関係者ら4000人に呼びかけた(写真中央)


 三木谷社長は同日、同施策が独禁法に違反する可能性があるとして、公取委が出店者から事情を聞くなどの調査を始めたと一部で報道されたことを受けて講演の直前、自身のツイッターで「公取や行政のマスコミにリークをして、牽制をかけるやり方はあまりに時代錯誤で酷すぎる。(中略)送料の標準化は消費者のニーズであり、店舗の売上を上げるための施策」とつぶやき、公取委への不満を漏らすとともに、懸案となっている「送料無料ラインの統一」に関して、予定通り3月18日から実施することを明かしていた。

 また、講演で三木谷社長は「近年実行してきた施策で、(顧客推奨度を示す)ネットプロモータースコア(NPS)は劇的に進化しており、アマゾンに肉薄している」とした上で、「ユーザーをだましたり、送料で儲けたりする店舗は皆さんの敵。これをいかに防ぐかを考えなければいけない。数店舗でも悪い店舗がいて、ユーザーが悪い経験をすると、楽天市場の信頼性が下がる」と訴えかけた。

 送料に関しては、「790円の商品で送料を1700円徴収する」ケースなど「意図的に商品を安く見せているが、送料との合計価格は他店より高い」事例や、送料表示に落胆したユーザーレビューを示し、「こうした経験をするとユーザーは『詐欺じゃないか』と思い、皆さんの店舗でも買わなくなる。NPSがアマゾンに負けている理由は送料。送料が原因で購入をあきらめたことがあるユーザーは約7割で、送料との合計表示に変えれば、日本の企業が運営する楽天市場で買ってくれる。送料表示については『商品の値段を安くして送料で儲ける』というやり方も昔はありだったかもしれないが、ユーザーも馬鹿ではないので、今は全て込みで考える。こうした現実から目を背けて一部の店舗が騒いでいるが、結局皆さんの店舗でユーザーが買い物をしなくなれば何の意味もない。今回の施策を何が何でも皆さんと一緒に成功させたい。流通総額が十数%は上がるはずだと確信している」と述べ、「対アマゾン」を考えた上での施策であることを強調し、さらには楽天ユニオンの動きもけん制した。

 公取委の菅久修一事務総長は1月29日の定例会見において「個別案件にはコメントしないが、申告があった場合には必要な調査を行い、法律と証拠に基づいて適切に対応している」とし、さらに「(独禁法に)違反する行為があれば、それは必要な調査をしなければいけない」と、今回の「送料無料ライン統一」問題についてコメントした。

 では、公取委は今回の案件をどう判断するのか。ある公取委OBは「独禁法は自由競争を前提にしたものなので、出店者との関係を考えなければ、楽天が『アマゾン1強』を防ぐために導入する施策という点で、競争促進効果は強いと考えられる」ものの、「楽天は利益を得るのに出店者が損をするとしたら、優越的地位の乱用に当てはまる可能性はある」とする。「独禁法における優越的地位の乱用」の典型例とされるのが、家電量販店がメーカーに協賛金や販売員(ヘルパー)を出させるというもの。今回の施策で楽天ユニオンが主張するように「楽天は流通総額の拡大で手数料収入も増えるが、送料負担を強いられる店舗は利益が減って苦しくなる」という、家電量販店の例に似た構図が成り立つなら、独禁法に抵触する可能性があるとの見解だ。

 別の公取委OBは「公取委は排除措置命令を視野に入れているのではないか。『楽天市場に頼らざるを得ない』という出店者がいて、そこまで他店と競争する力がないのに競争を強いられれば会社は潰れかねない。楽天市場の出店者は中小企業が多く、会社が九州や北海道にあれば負担する送料はさらに増える。下手をすれば売れば売るほど損をすることも考えられるので、こういう施策はまずい」と指摘する。一方で先の公取委OBは「措置命令を出せば楽天が取り消し訴訟を起こすのは確実で、泥沼になる。かといって指導だけでは恐らく楽天は従わないだろう。泥沼化を覚悟の上で措置命令を出すか、それとも問題なしとするのか判断しにくい」と話す。

 独禁法に詳しい弁護士は「アマゾンなどの競合に乗り換えることで売り上げを確保できる出店者は多いはずで、出店者がそこまで楽天より劣位にあるとは思えない。独禁法は当てはめにくいのでは」とする。とはいえ、アマゾンは楽天に比べて店舗の色が出しにくく、ヤフーは楽天より規模がかなり小さい。構造的に「楽天市場に依存している」店舗も相当数あるはずで、この部分をどう公取委が調査・判断するかがカギになりそうだ。

 出店者が公取委に調査を申告した事例は過去にもある。通販サイト「石けん百貨」を運営する生活と科学社は2005年11月、楽天の出店規約の一方的な変更は、独占禁止法違反(優越的地位の乱用)の疑いがあるとして公取委に調査を申告した。02年に楽天が実施した、規約改定による固定料金から従量課金制への変更などを問題としたものだが、同社によれば07年11月に公取委から「独禁法上の問題とすることは困難」との通告があったという。ただ「これは基本的に契約不履行の問題であって、独禁法違反とは捉えにくい。システム改善のためという値上げ理由も理解できるもので、少なくとも送料無料ライン統一に比べると違法性は低いと感じる」(後者の公取委OB)。

 今後の動きについては「調査開始から結論が出るまでに少なくとも半年、1年以上かかる可能性もある。裏取りのための調査もかつてない大規模なものになるのでは。もし措置命令が出たら課徴金は高額になるだろう」(同)。競争上の問題の早期是正を図り、事業者と協調的に問題解決を図る「確約制度」の活用も考えられるが、それには楽天が今回の施策に対する問題点を認めて改善する「確約計画」を出さなければいけない。

 楽天の「アマゾンに対抗するための努力」という主張に対し、公取委は「出店者に不当に不利益を与えている」として違法性を認めるかどうか。「公取委も楽天も引くに引けない」(先の弁護士)状況で、両者の対応が注目される。



「公取委に適正な判断求めたい」

<記者会見の質疑応答から>

 新春カンファレンス後に開かれた記者向け説明会で、楽天の野原彰人執行役員らが報道陣の質問に答えた。

 ――公取委が調査に動くという報道があった。

 野原執行役員「回答は控えたい。もちろん、何らかの要請があった場合には最大限協力して対応していきたい」

 ――先ほどの講演で三木谷社長は「何が何でも(施策を)やる」と発言していたが、齟齬(そご)はないか。

 野原「三木谷は熱い男なので、三木谷なりの表現の仕方だと思う」

 ――今回の施策で店舗の売り上げが増えるというデータは示されたが、利益が増えるというデータはあるのか。

 CEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏「従来、別途送料を請求していた店舗や商品については、それを加味した形での価格調整は店舗の判断で可能だ。一方で、今回の施策を先取りして導入した店舗では、価格を据え置き実質的に値下げして販売したところ、売り上げが伸びて新規顧客が獲得できた。こうした顧客がリピーターになることで、利益が回収できる。店舗の利益構造や販売戦略によってまちまちだが、店舗をサポートしていくとともに、ユーザーや店舗からの声を引き続き聞き、場合によってはルールを見直すこともあり得る。5万店舗あるので、商品ジャンルはいろいろだし、規模も異なるから同じ型番商品であっても仕入れ値が異なる。3月18日以降、当社のECコンサルタントが対応していきたい」

 ――アマゾンの拡大に対する危機感は。

 野原「力強いコンペティターであり、またグローバルな競争を強いられている。アマゾンのビジネスモデルは独占資本主義で、店が減少する状況でも消費者にベネフィットを提供するという考え方だ。当社は『三方良し』のビジネスモデル。ユーザー、店舗、楽天という3つのステークホルダーがそれぞれハッピーになるという考えを墨守してきた。GAFAへの規制など、アマゾンのやり方に対して少しずつ潮目が変わってきている部分がある。ただ、3者のバランスを取るのは難しく、現在置かれた環境を見る目もそれぞれ違う。3者にある情報のギャップを埋めて、変化に対応することへのコンセンサスを得て、新しい方向に向かっていくべく努力したい。当社がまだまだ足りないと思っているのは、変化に対する方向性を店舗に理解してもらい、一緒に大きな文脈を作っていくためにコミュニケーションを取ることなので、しっかりやっていきたい」

 ――自社配送網の整備に関しての目標は。

 川島「2021年までに、店舗の楽天市場における出荷量のうち、50%程度を当社の物流網を何らかの形で使ってもらえるようにするべく取り組んでいる。倉庫のキャパシティーを拡充し、冷蔵・冷凍商品や大型商品にも対応できるような施設を有する。また、自社配送も強化しており、エリアの拡大を続ける」

 ――自社配送網の整備が終わってから今回の施策を導入すべきだったのでは。無料化を進めるなら送料を負担する必要があったのではないか。

 川島「楽天市場は『送料の分かりやすさ』の満足度が他社に比べて大きく劣後しているので、全店舗で揃える必要があると判断した。ユーザー調査において、送料無料ラインの統一に対して魅力を感じる人が多い。安さを強調したり、強要したりするつもりはなく、『分かりやすさ』を改善したいということ。施策への対応は店舗の判断だと思っているし、物流についてはしっかりサポートしていく。店舗の物流を請け負う『楽天スーパーロジスティクス』は全国統一価格で配送できるため、非常に魅力的な料金体系だと自負している」

 ――ヤフーは一部店舗を切り出した『ペイペイモール』を立ち上げたが、こうしたやり方を採用しなかった理由は。

 野原「制度の変更に対して、その都度全店舗の合意を取っていたら環境の変化についていけなくなる。その際、一番簡単な方法はモールを分けることだが、それが本当に正しいかは一考の余地がある。20年以上楽天市場を手掛け、店舗とともに成長し、マーケットプレイスを一緒に作ってきた。であれば、環境の変化を理解してもらい、一緒に歩むことが『ウォークトゥギャザー』の精神だと思う」

 ――独禁法違反の疑いで調査を開始した事案について、競争上の問題の早期是正を図り、事業者と協調的に問題解決を図る「確約制度」の対象となった場合、応じるつもりはあるか。

 野原「仮定の話には答えにくいが、昨年『楽天トラベル』において確約手続きをしているので、プロセスは理解している。今後は公取委とコミュニケーションしていくことになるが、当社はIT業界の中では、日本を代表する企業の一角を占めると自負している。行政にIT業界の現状に関する情報を提供し、適正な判断をしてもらうことも当社の役目だと思っている」


 
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