TSUHAN SHIMBUN ONLINE

インターネット・ビジネス・フロンティア株式会社
記事カテゴリ一覧

大阪府警、ASPを捜査か<アドネットの闇> 重くなるウェブ広告関与の「代償」

2021年 2月12日 12:40

 昨年7月の「ステラ漢方事件」は、広告業界に衝撃を与えた。大阪府警が薬機法の「何人規制」を発動。広告主のステラ漢方だけでなく、広告代理店関係者の逮捕に踏み切ったためだ。だが、警察当局によるウェブ広告業界の監視は緒についたばかりだ。すでに年末から、アフィリエイト・サービス・プロバイダ(ASP)への家宅捜索など、新たな事件捜査に着手している。

 
バブルに沸くウェブ広告業界

 「3年で売上高100億」。ここ数年、ウェブ広告業界は、そんなバブルに沸いていた。テレビや新聞など「オールドメディア」と呼ばれる媒体への広告規制が厳しさを増す中、広告主はこぞってウェブ市場に舵を切り始めたためだ。19年、国内のウェブ広告費は、20%増の約2兆円に到達。テレビの広告費を初めて抜いた。

 これに冷や水を浴びせたのが、「ステラ漢方事件」だった。大阪府警は昨年7月、「ズタボロになった肝臓が半年で復活」などと医薬品的効能効果をうたい、健康食品「肝パワーEプラス」を販売していたとして、健食通販を行うステラ漢方の従業員を逮捕した。広告違反の内容自体、業界に身を置くものであれば、誰でも「アウト」と分かるオーソドックスなものだ。

 衝撃を与えたのは、広告掲載に関与したとして、広告業大手のソウルドアウト従業員など関係者計6人の逮捕に及んだことだ。これまで警察当局が「何人規制」を厳格に適用したケースは少なく、代理店、制作サイドに動揺が広がった。

新たなメディア支配の構図

 だが、一連の事件で見過ごされてきたものがある。「アドネットワーク」をめぐる業界の構造的な問題だ。

 アドネットは、ウェブサイトに広告を配信するプラットフォーム。システムを構築する配信事業者は、媒体社に広告の配信・分析システムを提供する。一方、媒体社は自社のウェブメディアへの広告配信を委託する。

 有名どころは百度(バイドゥ)子会社のpopIn(ポップイン)、GMOアドマーケティング、Zucks(ザックス)、Logly(ログリー)、Speee(スピー)、Taboola(タブーラ)など。中には1000前後の媒体社をネットワーク化する事業者もいる。媒体社にとっても、アドネットは、ウェブメディアのマネタイズを図る上で無くてはならない存在になっている。

JARO加盟も、違反広告配信 

 不適切広告の掲載に至るプロセスはシンプルだ。本来、違反の蓋然性が高い広告は、配信事業者、媒体社が水際でブロックできる余地がある。それが媒体の信用にも関わる。アドネットもPopIn、Loglyは、日本広告審査機構(JARO)の加盟社。Loglyは東証マザーズに上場しており、Zucksは電通が53%を出資するCARTAHOLDINGS(カルタホールディングス)のグループでもある。

 だが、媒体社は、ウェブメディアの実質的な審査は配信事業者に丸投げしている。「Taboolaなど一部は、第三者機関の薬機法チェックの証明が必要だが、アドネットの多くは、審査がザル」(代理店関係者)、「アドネットも審査を緩くすればクリック率が上がり儲かる。代理店も自重しては市場で強い広告と戦えず、自然、過激になる」(別の代理店関係者)という中、薬機法や景品表示法の観点から問題のある広告が大量に垂れ流されている。

 そもそも、両者はあくまで広告主に配信・掲載を依頼された「仲介者」。遵法意識は醸成されにくい。自らメディアを持たない配信事業者であればなおさらだ。実際、「ステラ漢方事件」で摘発対象になった広告の一部もpopInにより配信されもの。同社もその事実を認める。

 こうしたウェブ広告の構造に、前出の関係者らは、「請け負った代理店も悪い。顧客獲得を優先する広告主も悪い。けれど、業界を根本的に変えるには媒体社、アドネットも変わる必要がある」、「本来はJAROが適正化を支援すべき。だが、加盟は、企業の信頼を得るためのロビー活動になっている」と指摘する。

「捜査当局への協力は事実」

 自社で広告審査基準を運用する単一メディアは、審査厳格化の動きをみせている。ヤフーは、昨年8月、コンプレックス部分を露骨に表現した広告の出稿を禁止。20年度上半期に約1億1000万件の広告表現を「非承認」にしたことを公表した。一部のウェブメディアも「昨年以降、審査が厳しくなっている」(代理店関係者)という。

 一方、アドネットは事件後、「複数の配信事業者が協議したと聞いたが、『やられることはないから大丈夫』との結論に至った」(別の関係者)との話も聞かれる。

 今回、事件を受けた対応や審査体制について表の配信事業者に質問したが、回答があったのはpopInのみ(Speeeは「担当者の時間が確保できず辞退」と回答)。薬機法や景表法に基づく適法性審査を専門チームが「行っている」とし、事件を受け、「社内審査基準の一層の見直し、社内への注意喚起を行った」とする。ただ、基準運用の詳細は明かしていない。

 「ステラ漢方事件」から約半年。大阪地検は逮捕者の処遇を「開示していない」とするが、複数の関係筋は「まだ起訴・不起訴の判断は行われていない」と明かす。

 だが、警察当局は、すでに新たな動きをみせている。健食広告の薬機法違反に絡み、大阪府警がASPに家宅捜索を実施。府警は、「事実関係を含めノーコメント」とするが、当のASP運営企業は、「捜査当局へ協力しているのは事実」と認める。ウェブ広告関与の「代償」は確実に重くなっている。


構造改革「業務の範囲外」、適正化は「個々の事業者の責任」

【JAROの山本一広専務理事に聞く ウェブ広告の問題意識】


 日本広告審査機構(=JARO)には、「ステラ漢方事件」で逮捕者を出したソウルドアウトなど広告事業者が多く加盟する。アドネットワークによる不適切広告の配信の是正は「活動の範囲外」と回答。活動のスタンスは、こうした事業者の排除ではなく、適正化の支援とする。山本一広専務理事に、事件を受けた問題意識を聞いた。

 ――「ステラ漢方事件」で逮捕者を出したソウルドアウト、同社に社外取締役を派遣するヤフーが加盟社になっている。事件を受けて対応を行ったか。

 「ソウルドアウトが加盟したのは事件後。適正化のために入会したいとの申し出があり、ヒアリングや理事会判断を経て会員になった。事業自体が反社会的でなく、広告の適正化を進める意思のある企業は積極的に受け入れるスタンス。会社自体の信用もあり、事件も組織的なものではないと判断して認めた。ヤフーは業界内でも広告適正化に前向きな会社と認識しており、協会の活動にも協力してもらっている」

 ――入会の基準は。

 「基準というより、広告適正化に努める意思確認が中心になる。必要に応じて面談や業容の確認を行う。その上で法令順守、広告の質的向上に努める等の誓約書を提出いただき、最終的に理事会で承認する」

 ――摘発対象の広告は、アドネットワークで配信された。本紙取材では、少なくとも当該広告の配信事業者1社は加盟社になる。把握しているか。

 「していない」

 ソウルドアウトからヒアリングは検討するか。

 「JAROの活動領域は広告・表示の適正化と認識している。アドネットワークでの広告露出の仕組みに踏み込んで調査する能力はない。それは個々の事業者の責任であると考えている」

 ――起きた背景を捉え正していくことは広告適正化の方向性と一致するのではないか。

 「カバー領域はあくまで広告表示。表示の是非は判断できても、なぜ審査をすり抜け悪質な広告が掲載されたか、仕組みに踏み込めない」

 ――ソウルドアウトに聞けば分かるのではないか。他媒体とアドネットの配信広告の水準を横並びで見た時に、適正化に向けてできることもあるように感じる。

 「不適切な広告が世の中に配信されない仕組みづくりは配信事業者がやること。JAROは構造を正していく立場にない」

 ――それではJAROが行うことは何か。

 「消費者、時には事業者もいるが、原則は、苦情を起点に中立性を担保した場で広告に対する見解を審議し、広告主に伝える。あくまで苦情が起点である。一方で苦情がないものをJAROが恣意的に行わないのがポリシーだ」

 ――広告主でない関連事業者を加盟させる意味合いが希薄にならないか。

 「加盟社は、大きな視点で広告適正化が広告業界にとって必要であるというスタンスで加盟してくれていると思っている」

 ――他媒体のように一定の考査基準の共有を目指す道もある。基準策定を支援することはないのか。

 「定款に定める事業内容には業界団体が広告基準を策定する際に支援するというものがある。ただ、定款を定めた当時はウェブもなく、各業界で考査基準が共有されていない背景があった。業界特有の事情に即した基準策定は難しさもあり軽々に言えるものではない。今はこちらが業界が定めた基準を勉強させてもらい、審査や事前相談に活かす立場だ」

 ――加盟社は適正化に努める意思表示をした企業で方向性は一致する。

 「起点は苦情なので苦情があれば指摘を行う。現状において苦情がない中で逮捕者を出たから問いただしていくことは範疇外。それはほかの方がやることで、こちらに強制力はない」

 ――今回の事件を起点にソウルドアウト、関連事業者に行う対応はない。

 「過去のことでもあり対応することはない」

 ――広告審査は要請の程度が弱いものから「助言、要望、警告」で見解を示す。昨年4月、新たに「厳重警告」を設けた。ウェブ広告への問題意識からきたものか。

 「そうなる。媒体で区別はないが、多くの媒体は事前審査が徹底している。現状で『厳重警告』にあたる広告が掲載される可能性は低い。ウェブは不適切な広告・表示を行う事業者が、まだすり抜ける手段がある」

 ――アドネットの配信広告に対する問題意識は。

 「当然、関心は持っている。2年ほど前からウェブ業界の企業に積極的に加盟してもらい、連携・協力の輪を広げようと努めている。ウェブ広告業界も悪質な広告を放置しているわけではないが、新興企業の参入も多く、現状として悪意のある事業者がアドネットワークを利用した時にシステム上、適正化が難しい部分もあると理解している」

 
楽天 リピート通販向け基幹システム通販マーケッター 売れるネット広告社セミナー開催! 通販売上高ランキングのデータ販売
通信販売年鑑アンケート調査