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【トランスコスモスの柏木常務が語る DX化の日米格差とは?㊦】 ツールの導入だけでは不十分  “ヒューマンコマース”がカギ

2021年 6月10日 12:30

 前号に引き続き、トランスコスモスの柏木又浩常務執行役員デジタルトランスフォーメーション総括責任者(=写真)に、日本の小売りや通販会社が知っておくべき欧米企業のDXの現状などを語ってもらった。

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 今年1月に全米民生技術協会がオンラインで開催した技術見本市「CES」では”コレクティブディスプレイスメント”というワードが話題になった。これは、「集団移動」とか「集団変位」などと訳されるが、コミュニティの変化は個人の変化よりも大きく作用することを意味する。

 例えば、ECで何かを買うときに、自分の欲しいものリストの中から買うよりも、SNSなどでつながるグループのマイクロモーメントの方が消費行動に影響するという。極端に言えば”共感”が何よりも大事で、外出もままならないコロナ禍では、これまで以上に自分が身を置くコミュニティのマイクロモーメントが影響力を持った1年だったと言えるのではないか。

 コロナ禍の欧米で、リアルからオンラインにニーズが移って大きく伸びたのはフィットネス分野と教育分野だろう。自宅にいる時間が増えたことと、体の抵抗力を高めるためにフィットネスに取り組む人が増えたし、それを見越した企業は成長している。ヨガウエアブランドの「ルルレモン」が、鏡型デバイスを使ったオンラインフィットネスを展開するミラーを買収したのが良い例で、アパレル企業がデバイスの会社を買うというのは今一番正しいアプローチだと思う。

 自由な時間が増えたことで何かを学ぼうとする人も増えた。有名ギターブランドの「フェンダー」は昨年、ギターのオンラインプログラムで90万人の有料会員を獲得し、ギターとベースの販売数も大きく伸ばしたという。「ルルレモン」のミラー買収も含め、コンテンツビジネスとしては大成功で、消費者の新しいライフスタイルを理解した上で、物売りだけでなくコンテンツも提供することでビジネスチャンスをつかんだ。

 繰り返しになるが何を売るにも”共感”が最大のキーワードで、フィットネスもオンライン教育も同じプログラムやコンテンツに取り組むコミュニティがある。そうしたコミュニティを取らないと今後は勝ち残れない。過去に戻らず前に進むことで顧客への新しいアプローチ手法や事業のチャンスが生まれる。

 日本でも”コロナを機に”という話題は多かったと思うが、コロナ前とマーケットが明らかに変わったと日本の企業がどれくらい思えるかが、これからの成長に影響してくると思う。世界の主要国において、コロナ禍でDXがもっとも進まなかった国は日本だとも言われている。デジタル領域では相当遅れをとったと認識しなければいけない。

オンラインでの接客が定着

 一方で、日本でも店舗スタッフがオンライン接客などを通じてECチャネルに貢献することが増えたし、そうした取り組み自体も定着してきた。

 小売りのDXを進める際、ただデジタルツールを導入すればいいわけではない。当社が日本での独占販売契約を結んでいるオンライン対面接客ツール「HERO」の良いところは、デジタルと人の力で結果を出せること。商品のことをよく知っている販売スタッフがチャットや動画などを活用し1to1でオンライン接客を行える。

 私自身がこれまでTSIなど事業者側にいてECのコンバージョン率改善に取り組んだ際、数字が10~20倍になることなどなかった。それが、人の力を介することで、日本でのコンバージョン率の改善幅は欧米よりも高く、平均20倍程度という成果が出ている。改めて、日本の接客レベルは高いと感じる。

 そうしたことを考慮すると、日本のDX化は欧米とは違った路線となる「テクノロジー+人」で取り組んだ方が成果が出やすいのではないか。キーワードは”ヒューマンコマース”になると思う。

 プロパー価格で売ることがより重要になっているが、ECチャネルは単品買いの傾向が強く、消費者は単品であるほど安く買いたくなる。「HERO」を使って接客をしながらスタイリング提案を行うことで、定価の商品が売れたり、セット率が高まることで利益も出やすくなる。

 実店舗がコンバージョンの場からエンゲージメントを高める場に変わっていく流れは引き続きありながら、「HERO」などのツールを使ってOMO化が加速すると、実店舗はコンバージョンの入り口にもなる。

 また、実店舗の新たな役割として、欧米では店舗が配送拠点化してきている。顧客の最寄り店舗から配送した方が早く安く届けられるからだが、配送拠点化するにはシステムをDOM(分散オーダー管理システム)に刷新する必要があり、基幹システムにまで影響するため、日本ではまだ時間がかかるかもしれない。(おわり)


 
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