TSUHAN SHIMBUN ONLINE

インターネット・ビジネス・フロンティア株式会社
記事カテゴリ一覧

楽天のふるさと納税 「ポイント禁止」撤回要求、武田副社長「総務省と議論」

2024年 8月15日 12:00

 楽天グループは8月2日、総務省が「ふるさと納税ポータルサイトにおけるポイント付与」を禁止する告示をしたことに関し、反対の意思表明と撤回を要求する記者会見を都内で開催した。武田和徳取締役副社長執行役員は「ふるさと納税はすでに国民に定着しており、多くの国民が楽しみにしている中で、今回の措置は水を差す内容になっている」と総務省を非難。その上で「ポイントがふるさと納税を利用するきっかけになれば、今後の地域活性化にも繋がる」と、ポイント付与の継続を訴えた。

 







 同社では、ふるさと納税のポータルサイトとして、2015年に「楽天ふるさと納税」を開設。寄付者には同社のポイントサービス「楽天ポイント」を付与しており、仮想モール「楽天市場」の大型セール「お買い物マラソン」や「楽天スーパーセール」にふるさと納税を組み込んでいるのが特徴だ。

 楽天の大型セールには、ユーザーが買い物する店舗数によってポイント倍率が高まる「買い回り」というルールがあり、1つの自治体への寄付も1店舗分の買い物としてカウントされる。寄付と合わせて10店舗分買い物をするとポイントが通常の10倍となり、さらに楽天市場のポイントアップキャンペーンも含めると、寄付額の15%以上のポイント還元が期待できる仕組みだ。

 楽天だけではなく、寄付者に対し、独自にインセンティブを与えるふるさと納税のポータルサイトは多い。中には、寄付額の50%近くをポイントで還元するキャンペーンを展開するポータルサイトもあり、総務省はこうした販促を問題視していた。

 記者会見では、総務省が打ち出した「ポイント付与禁止」に対し、「地方自治体と民間企業の連携体制がうまくいっているのに、これを否定するものだ」(関聡司執行役員渉外室長)と批判。同サイトで寄付者に付与しているポイント原資は同社が負担しており、楽天市場において出店する全店舗が支払っている、基本1%分のポイントについても自治体に請求していないという。

 松本剛明総務相が6月25日の記者会見で「自治体の払う手数料からポイントを付与するのはおかしい」という趣旨のコメントをしたことを踏まえ、関執行役員は「ポイント付与を禁止しても手数料が下がることはない」と断言した。

 また、楽天では告示改正に至るプロセスも問題視。「総務省からは事前にポイント付与制限に関する話はあったが、具体的な改変内容が明示されないまま『禁止』が発表されて驚いた」(関執行役員)という。

 同社では告示改正がされた6月28日より、告示に対する反対署名活動をインターネット上で展開。8月1日時点で署名は185万件を超えたという。同社では今後、さらに多くの署名が集まった時点で、署名とともに改めて総務省に告示の撤回を申し立てる方針だ。

 一方、総務省では「ふるさと納税は『ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、もしくは応援する気持ちを伝える』ために行うもの。『ポイント付くからこのサイトで寄付しよう』というのは、制度の趣旨に沿っていない」(長谷川雄也課長補佐)と、ポイント付与を禁止した理由を説明しており、「ポイント付与はふるさと納税の利用を促進する」という楽天の主張とは平行線をたどっている。

 これに対し、武田副社長は「最終的な落としどころは今のところ考えていない」と述べ、告示の撤回を求めて総務省と議論を重ねていく考えを明らかにした。また、実際にポイント付与が禁止された場合、楽天市場の流通への影響が出るかどうかについては「この場では答えられない」(武田副社長)と明言しなかった。






「落としどころ」考えず<報道陣との一問一答>

 武田和徳取締役副社長執行役員、木村美樹上級執行役員地域創生事業ヴァイスプレジデント(画像㊤)、関聡司執行役員渉外室長(画像㊦)と、報道陣との主な一問一答は以下の通り。

 ーー総務省は「ふるさと納税は寄付であり、Eコマースではない。ポイント付与自体が問題だ」という考え方だ。これに対する見解を教えてほしい。

 武田副社長「ポイントは、ふるさと納税の利用促進の助けになる。ポイントがふるさと納税を利用するきっかけになれば、今後の地域活性化にも繋がる。当社としては、ポイント付与を継続できるように訴えていきたい」

 関執行役員「総務省は『制度本来の趣旨を尊重するため』と良く言うが、松本剛明大臣の記者会見などを見る限りでは、ポイントを禁止することで、ポータルサイトが徴収する手数料を下げる目的もあるのではないか。当社の主張と総務省の考えが乖離しているのは事実だが、そこは話し合う必要がある」

 ーーポイント付与が禁止となった場合、寄付が「買い回り」に含まれることで段階的にポイント付与率が増す「お買い物マラソン」や「スーパーセール」の流通への悪影響も考えられる。

 武田副社長「当社では自治体と一緒に、地域活性化についての多くの課題を解決している。ポイントとは別に、やるべきことをやっていきたい」

 ーーつまり、楽天市場の流通への影響は出ないということか。

 武田副社長「楽天市場への影響については、今ここではお話できない。当社としては、ふるさと納税の本来の趣旨である『地域活性化』をメインの問題として捉えている」

 ーーポイント原資は楽天が負担しているとのことだが、約10%の手数料を徴収しており、他のポータルサイト運営企業の決算資料を見ても、そこでかなりの利益が出ているはずだ。「高い手数料率で儲けているからこそポイントが付与できている」という見方もあると思うが。

 木村上級執行役員「当社の手数料率は比較的リーズナブルなはずだし、自治体からも『多くの寄付が集まる』との声をもらっており、当社としては適切な手数料で運営していると考えている」

 ーー楽天以外のポータルサイトからは目立った反対の声が挙がっていない。「事前に総務省とのポイント禁止に関するコンセンサスができていた」という話も聞くが、なぜ楽天だけ強硬に反対しているのか。

 木村上級執行役員「他社のことは分からないが、当社にも総務省からの話はあった。ただその中身については、齟齬(そご)があったと思っているし、総務省サイドも『情報の行き違いがあった』と言っている。これからも建設的に話を継続していきたい」

 関執行役員「少なくとも、告示の内容についての共有があったのは正式発表の直前で、それに対して異議を唱えるチャンスがなかった。そういう点で総務省のコミュニケーションが十分でなかったと考えている」

 ーー他のポータルサイトは「ポイント禁止は想定の範囲内だった」と言っているが、楽天は寝耳に水だったのか。

 関執行役員「ポイントの上限を決める、などいろいろな議論があったことは聞いているが、このタイミングで『付与を禁止する』とまでは考えていなかった」

 ーー8月1日までに185万件超の署名が集まったとのことだが、ゴールはどこか。

 武田副社長「今現在も増えており、200万件を超えるのは確実。どんな意見が多いのかも含めて、総務省に申し立てるタイミングを考えたい」

 ーー参画自治体の声は「中立」が80%以上で、(楽天の意見に)「賛成」よりも「反対」の声の方が多い。自治体の意見が署名提出に関わってくる部分もあるのか。

 木村上級執行役員「地方自治体はふるさと納税だけをやっているわけではなく、総務省とは他にもいろいろなやり取りがある、という中での回答だ。自治体からの意見を分類するとこの3つになるが、中立の意見の中でも、賛成に近いものもあれば反対に近いものもある。ただ、多くの自治体は態度を保留していることは分かる。また『手数料が下がるならポイント禁止に賛成』という意見もあるが、そこは当社としては論点にしていない」

 「手数料が高い」と感じる自治体もあるようだが、手数料の引き下げについては全く検討しないのか。

 木村上級執行役員「手数料に関する議論が以前からあるのは認識している。今ここで手数料引き下げに関して何か言えることはないが、制度全体の中で議論はしていくべきだろう。制度設計の問題なので、総務省の意向次第ではないか」

 ーー2023年度の寄付総額が1兆円を超え、利用者も1000万人を超えた。ポイント禁止による影響をどう考えるか。

 木村上級執行役員「はっきりしたことは言えないが、当社としては現在の数字を維持できるような努力をできる限りしていきたい」

 ーー総務省と建設的な議論をしたいとのことだが、両者の主張は真っ向から対立しており、楽天の求める「撤回」を勝ち取るのは難しいのではないか。一致点や妥協点は。

 武田副社長「隔たりを埋めるのが難しいのは確かだ。ただ、今回の告示は十分な議論や当社の理解を得ることなくされているので、まずは『反対』の立ち位置を示した。現在は意見が平行線だが、議論を重ねれば局面が代わるかもしれない。両者の目的は『地域創生』という点では一緒だ。最終的な落としどころは今のところ考えておらず、告示内容の撤回が第一の旗印なので、議論していきたい」
 
楽天 先進的な施策展開するECを表彰する「次世代コマース大賞2024」 通販売上高ランキングのデータ販売