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楽天の「楽天市場」 「送料無料ライン統一」で新局面、楽天ユニオンが反対署名提出

2020年 1月30日 13:40

 楽天が運営する仮想モール「楽天市場」が、送料無料となる購入額を税込み3980円で全店舗統一する施策を導入することを受けて、同モールの一部出店者が結成した任意団体「楽天ユニオン」は1月22日、公正取引員会に対し、独占禁止法の排除措置命令を求める措置請求書と、同施策に反対する店舗の署名を提出した。同社では予定通り、同施策を3月18日から適用する予定で、両者の対立は深まっている。出店者は今回の施策、そして楽天ユニオンをどう受け止めているのか。(写真は楽天ユニオンの勝又勇輝代表(中央)と坂井健一副代表㊨)
 






 楽天ユニオンは22日午前中、公取委の杉本和行委員長に措置請求書を提出した。内容は、今回の施策は楽天が店舗に一方的に負担を押し付けており、これが優越的な地位の乱用にあたるため、排除措置命令を求めるというもの。3980円以上の注文があった場合、店舗側が送料を負担することで利益が減少するため、過大な不利益が生じるとしている。

 また、同施策に関して調査を求める署名1766件のほか、店舗がアフィリエイターに支払う成果報酬の料率値上げ、新決済プラットフォーム「楽天ペイ」、ルール違反を犯した際に点数を付与し、累積点数によって罰則を課す「違反点数制度」にそれぞれ反対する署名も提出しており、計3958件に及ぶ。

 楽天ユニオン顧問弁護士の川上資人氏(写真㊦)は「プラットフォーマーとそこで商売をしている事業者の力関係の差があまりにも大きすぎる。以前からこうした問題はあったが、さすがに今回の施策には堪忍袋の緒が切れて、声を上げざるを得ない状況に追い込まれた。社会通念に照らして、こうした施策が許されるのかという問題提起をしていくことで社会的な圧力をかけ、楽天に考え直してもらいたい」と措置請求書と署名の提出に至った背景を説明した。

 楽天ユニオンの勝又勇輝代表は「送料や消費税に対する課金を一方的に行うなど、楽天は出店者にとって利益が減ってしまう規約変更が多い。ヤフーなど他モールはそこまで影響のある規約変更はない。今回の施策は利益が残らないどころか、売っても売っても赤字になってしまいかねない」と楽天を批判した。

 今後について、勝又代表は「やれることはすべてやったので、公取委の動きを見ながら、強行するなら裁判所への差し止め請求も検討したい」とした。その上で川上弁護士は「店舗は声を上げた際に、楽天から一方的に契約を解除されるという報復的措置を恐れている。店舗名が楽天に知られる訴訟にはリスクがあり、二の足を踏む店舗がほとんどだ」と述べた。

 これに対し、楽天では「意見書を提出したことは報道等を通じて認識しているが、内容については直接いただいたものではない。個別の団体の意見だけでなく、これまでさまざまな機会を通じて直接多くの店舗からご意見をいただいている。店舗それぞれで状況も異なるため、多様な店舗の意見に真摯に耳を傾け、いただいた声を、消費者・店舗の双方にとってより良い施策となるよう活かし、店舗の中長期的な成長への寄与を目指していく」(EC広報)とコメントしている。

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 「報道等でそういう団体があるのは認識している。ただ、現段階においては当社とのコミュニケーションはなく、どういう主張なのかも良く分からない。おいおいコミュニケーションがなされるのではないか」。楽天が同日午前、都内の本社で開催した記者向け勉強会の席上、楽天ユニオンへの対応について記者に問われた野原彰人執行役員はこう述べた。同社が楽天ユニオンに対して公式の場でコメントするのはこれが初めてだ。

 同団体では、中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合の設立を目指しており、発足すれば法律上は楽天との団体交渉権が得られる。ただ、同団体が参加者と位置づけるコミュニティーである、グループLINEのメンバーは店舗に限ればまだ450程度。さらに、協同組合を立ち上げた際に、どれだけの出店者が参加するかは分かっていない。参加店舗の顔が見えず、楽天に影響力を及ぼすような大手もメンバーには加わっていないようだ。楽天が話し合いに応じる可能性は現段階では低いとみられる。

 同団体では、出店店舗向けのクローズドな電子掲示板「RON会議室」において、反対の意思を表明した投稿に対し「そう思う」をクリックした店舗が2137、「そう思わない」をクリックした店舗が9と大差がついたことを根拠に「大多数の店舗が反対している」と主張。「RON会議室において、楽天側に納得の行く説明も求めてきたが、『回答できない』という回答しか得られていない。話し合いに応じる形になっていない」(坂井健一副代表)とする。これに対して楽天は「RON会議室は基本的には店舗同士の意見交換の場。反対意見はある一面では事実だが、全店舗の意見を集約したものだとは思っていない。店舗名が表示される投稿形式ということもあり、掲示板上で攻撃されることを恐れて、異なる立場の店舗が声を挙げにくい構造になっているからだ」(野原執行役員)と反論する。

 楽天ユニオンの主張に対し、冷ややかな反応を示す店舗もある。「楽天の決めたことに対して準備するという姿勢なので、特に賛成・反対はない」(大手出店者A)、「活動にはあまり賛同できない。ネット販売はさまざまな動きに適応することが重要であり、こうした考えのショップが今後も生き残れるとは思えない」(大手出店者B)という意見もあれば、「送料無料ラインには賛成していないが、発言に(極端な例を挙げて自社が損をするとアピールするなどの)偏りが感じられる。周囲の中小規模の店舗にも共感は広がっていない」(大手出店者C)、「理解できる部分はあるが、やり方は考えたほうがいい。RON会議室での発言スタイルも、楽天の歩み寄りを生むようなものとは思えない」(大手出店者D)といった声もある。

 代表の勝又勇輝氏が運営する店舗に関しても「あまり良い評判は聞かないので、一線を画したい」(大手出店者D)。例えば同氏が代表を務める会社のヤフーショッピング店では、約300円のハンギングバスケットに対し、東京への送料は1590円かかる。同価格帯の他店舗は送料を864円、790円、650円に設定していることを考えると高さが際立つ。ストア都合キャンセル率も3・78%と高い。同氏が運営を請け負っている楽天市場内の店舗(店舗名はヤフー店と別)でも同じやり方だ。「商品価格を安くして検索上位を獲得し、送料で利益を回収する」という手法はルール違反ではないが、ユーザーフレンドリーな店舗とは言えない。さらにいえば、今回の施策導入で痛手を被るはずだ。自店の都合が透けて見えるようでは、多くの店の支持は集めにくいだろう。

 一方で、楽天ユニオン以外にも、楽天の説明や手続きに納得していない店舗は存在する。大手出店者Cは「南米のマーケットプレイス『メルカドリブレ』が全店舗の送料無料ライン統一後、流通総額が急拡大したというが、どれくらいの店舗が売り上げを伸ばしたのか、経営はどうなったのかなど、エビデンスを全く出していない。また、価格決定権はあくまで店舗にあるというが、送料無料ラインが3980円になるなら強制的に値上げさせられるのと同じだろう」と批判する。また、大手出店者Dは「他店に比べれば説明を受けている方だと思うが、それでも不十分だと思っている。1年前に突然この話が出てきて、8月に具体的な額が分かったという流れは一方的に感じる。3980円に設定した根拠も弱い」とする。

 もともと楽天では、沖縄・離島への配送についても3980円で送料無料とする予定だった。しかし、10月には税込み9800円にすることを公表した。「有力店舗から猛反発を受けたことで、方針を撤回したようだ」(楽天市場に近い関係者)という。

 また、仕入れ商品の場合、商習慣上、商品価格に送料を転嫁しにくいこともある。中小規模の出店者を顧客に抱える、あるネット販売コンサルタントは「仕入れ商品中心の店舗は、楽天に掲載する商品を絞り、最悪の場合は撤退を視野に入れているようだ」と話す。さらに、仕入れ商品が中心の大手出店者Dでも「送料が徴収できなくなる注文価格帯が出てくるので、必然的にコストは上がる。注文件数増よりもマイナスのインパクトが大きいだろう。売価の見直しが必要だし、楽天では販売しない商品をもっと増やさなければいけない」と危機感を口にする。これに対し、楽天では「商習慣上、価格を変えにくいのだとしたら、メーカーなどの取引先に対し、施策の狙いを説明する用意はある。もし、商品掲載数が減るようなことがあった場合は、必要な措置を講じたい」(同施策を担当しているCEO戦略・イノベーション室の川島辰吾氏)とする。

 楽天では「新制度導入で10%以上の売り上げの伸びが望めるのではないか」(8月のイベントにおける三木谷浩史社長の発言)と店舗が享受するメリットを強調。例えば、アウトドアグッズを販売する店舗の場合、送料無料となる購入額を5500円としていたものを3980円に下げるという実験を昨年10月から実施したところ、送料分のコストは上がったものの、売り上げ件数が前年同期比で14%増えたという。ただ、利益率がどうなったかは明かしていない。大手出店者Cは「リピート購入が期待できる商品なら中長期的にコストが回収できるだろうが、リピートが難しく、他店との価格勝負になっている商品についてはこうした理屈は通用しない」と指摘する。

 また、「1万円以上の購入で送料無料に設定し、2000円の商品を5個買ってもらっていた」というようなケースでは、2個購入すれば送料無料になってしまうため、そのままでは単価の減少とコスト増は避けられず、かといって商品を値上げすればユーザーにとってはトータルで支払う金額が増加する。楽天は「まとめ買い用にクーポンを発行する」「戦略にあわせて選んだ商品以外の売価を調整する」など、さまざまな対応策を店舗に伝えていきたい考えだが、結局のところ「個別に事情は異なるので不透明な部分が多い」(大手出店者C)わけだ。

 別のネット販売コンサルタントは「多くの店舗が商品価格を据え置くことで値下げとなれば、価格に敏感な楽天市場のユーザーは飛びつくだろう。ただ、価格転嫁が相次ぎ、実質的な値上げに振れれば逆になる。店舗がどう動くかで変わってくるだろう」と予測している。



スマホ世代取り込みへ弱点解消

<施策導入の狙いは?>


 楽天が今回の施策を推し進める背景には「ユーザーの急激な変化」がある。

 楽天市場といえば「縦に長い商品ページ」が大きな特徴だった。ページの作り込みが売り上げに直結していたわけだが、近年はスマートフォンからの注文比率が70%を超えており、パソコンでの閲覧を前提としたこうしたページは過去の物となりつつある。昨年12月の本紙取材に対し、野原執行役員は「注文媒体がパソコンからスマートフォンになって、店舗の顔が見えにくくなってきたため、ロイヤルな顧客が育てにくくなってきている」と説明。一方でアマゾンが取扱高を伸ばし、若年層を中心にフリマアプリの普及も進んでいる。

 楽天市場を「1つの大きなサービス」と捉えるユーザーが増えたことで、「決済や配送などに統一性がない」という仮想モールが抱える最大の弱点が浮き彫りになってきた。これまでは「『ネットでの買い物なので、制約や限界がある』という点を理解した上で、楽天市場で買い物をしてくれていた」(野原執行役員)が、新たにスマホ世代を取り込んでいくためには、弱みを解消する必要があると判断。「統一性を高めた上で、店舗の個性を引き出して競合と差別化する」方向に舵を切った。

 また、楽天ユニオンが「問題のある施策」と指摘している違反点数制度についても、導入後の規約違反店舗数は73%減となり、ユーザー目線でみれば成果が出ている。「ユーザーの満足度は確実に向上している」(野原執行役員)。近年、アマゾンでは不正レビューの横行がささやかれているが、売り場の正常化が進むことは楽天にとって大きな強みとなるはずだ。

 野原執行役員は「ユーザーの選択肢が増えている中で、手を打たなければ国内の小売り企業は駆逐されてしまう」と危機感を口にする。言うまでもなく、アマゾンを意識した発言だ。有料会員制度「アマゾンプライム」で囲い込みを図るアマゾンは、年会費を払えば直販なら基本的に送料は無料となる。送料はカート離脱率に大きく影響する要素だけに、楽天がアマゾンに対抗するには配送サービスの強化は必須といえる。

 同社では昨年から物流関連への投資を進めており、三木谷浩史社長は2000億円拠出することを明言している。出店者の物流業務を請け負う「楽天スーパーロジスティクス(RSL)」のほか、自社配送サービス「楽天エクスプレス」の配送網構築も推進。こうした流れで出てきた「送料無料ラインの統一」は、楽天にとっては是が非でも導入したい施策といえる。RSLへの移行を促すことで店舗の物流をコントロールし、ユーザーの利便性を高める狙いがあるからだ。

 「スマートフォンでの買い物が当たり前になり、注文あたりにかける時間が短くなっている。昔の価値観を変えなければいけないのは間違いない」(大手出店者C)と、同社と危機感を共有する店舗も多い。とはいえ、大手出店者Dの「ユーザー目線でいえば、送料無料ラインが一律になれば買いやすくなるのは分かる。ただ、現時点での楽天市場の仕組みに見合ったやり方ではない。アマゾンのような有料会員制度や、一部店舗を切り出したヤフーの『ペイペイモール』のようなやり方では駄目だったのか」という意見に代表されるように、楽天ユニオンへ肩入れする店舗が増えなかったとしても、今回の新施策に不満を覚える店舗が潜在的に多数派だとしたら、楽天にとって大きなリスクとなりかねない。

 同社の川島辰吾氏は1月22日の記者向け勉強会で、「説明をするだけではなく、店舗からいただいた意見を施策に柔軟に反映している。今後も必要があれば随時見直していきたい」と述べ、施策への理解を求めていくだけではなく、店舗の意見を受け入れる姿勢を強調した。楽天市場の出店店舗は約5万店で、商材も売り方も千差万別。やはり「不利益が生じる」店舗が出る恐れはあるだけに、同社でも店舗を全面的にバックアップしていきたい考えだが、こうした姿勢を公取委はどうみるか。デジタルプラットフォーマーを対象とした規制法案の国会への提出が迫る中、公取委の判断が注目される。

 
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