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【トクホ 終わりの始まり 8.「乱麻の業界団体㊦」】

2021年 6月10日 12:30

官民の二重審査で硬直化

 特定保健用食品(トクホ)の受け皿で、「乱麻」の業界団体を統べると期待された日本健康・栄養食品協会(日健栄協)。しかし、その役割には応えきれず、業界は流動化し、断裂も生じていく。

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 当初、日健栄協はトクホ制度において、厚労省から圧倒的に有利なポジションを与えられた。

 許可を得るための最初の窓口は、日健栄協と定めたからだ。

 先ず、日健栄協に当該製品の素材の有効性や安全性のデータを提出。ここでの内部評価で、認められた製品のみ申請を受理するという建付けだった。この後、厚労省は学識経験者による検討会で審査する。国立健康・栄養研究所での検査も行う。実質的に民間と行政の「二重審査」となっていた訳だ。これでは、時間がかかるのも当然であろう。

 「成分」と「製品」で細かい審査を行っていたこともネックだった。

 日健栄協で行っていたのは「成分」の審査だ。機能性や安全性などを専門委員と学術委員会が審議して、評価書を作成。この評価書がないと、厚労省には申請できない。

 具体的には、トクホに使用できる成分をリストアップしていた。

 94年には「食物繊維」「オリゴ糖」など、50の成分が内部評価で認められていた。ところが、この後、数はほとんど増えず、5年後の99年でもトクホで許可されたのは「杜仲茶配糖体」「大豆イソフラボン」などが追加されたに過ぎない。さらに厚労省では、素材がそれぞれの製品の形状で機能を発揮するかを確認する。

 こうした状況下では許可件数が広まる訳もなく、製品数は94年の23件から、97年にようやく100件超。99年時点でも120件にとどまっている。

 厚労省が日健栄協に前捌きをさせて、問題ないものだけを許可するという構図だ。しかし、業界団体が成分を増やすことのブレーキ役となることで、不満は日健栄協にも向けられていく。

 一方であまりに許可件数が伸びないことや二重審査の非効率性もあり、厚労省は96年からトクホ改革に乗り出す。96年には今でも使用される「トクホマーク」(図)を導入し、許可の有効期限について2年から4年に延長。

 さらに97年には、申請手続きを緩和し、日健栄協を通じた申請を廃止し、厚労省が直接に申請を受け付ける方法とする。

 ここで日健栄協は「トクホ利権」を返上することとなる。

 許可件数の少なさから鑑みて大した利権だったとはいえまい。一方で、業界側のトクホの申請窓口というステータスを失うことで、業界内での特別なポジションも失われる。

 そもそも健康食品の業界は、メーカー、小売りとも中小企業が多く、開発費がかかるトクホは活用できない。大手だけが使える制度として、業界内に「健康食品」グループと「トクホ」グループの断絶も生じていく。

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 「『規制』から『奨励』の制度へ脱皮を計り、生活者には理解しやすく、開発者には魅力ある『健康表示内容』に改めること」。97年まで日健栄協の特定保健部長を務めた人物は、自書の中でトクホについてこう記す。

 さらに「『申請ルール』を見直し効率化して、申請負担を軽減すること」を提唱する。内部の人間だからこそ、トクホにまつわる問題を正確に認識していたと言えよう。

 しかし、この課題を日健栄協内で改善することはできなかった。行政の外郭団体で天下り機関の限界を示したと言えよう。

 低迷するトクホや課題を抱える業界団体。そうした状況は思わぬ形で、一気に変わることとなる。

 「黒船到来」だ。(つづく)

 
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