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クロス・アップセル規制強化へ<「定期誘導」トラブル増加> 「広告商品」以外の提案は“不意打ち勧誘”

2022年12月 8日 11:00

 消費者庁は、通販のクロスセル・アップセルの規制を強化する。顧客の注文を受ける際、事前に「広告した商品」以外の商品提案について不意打ち的として、電話勧誘販売の規制を適用する。意図せず定期購入契約を締結させられるトラブル増加への対応を念頭に置く。事業者は、一連のマーケティングの見直しを迫られそうだ。

 












新聞、テレビで誘引、規制対象に

 11月30日に公表した特定商取引法の政令の改正案で示した。12月29日までパブリックコメントを募集。消費者委員会、消費経済審議会(経済産業省)への諮問を経て、来年6月までに改正する。

 電話勧誘販売は、企業が電話をかけることにより行う方法、広告等により「電話をかけさせる」場合の違反行為を規定する。改正を行うのは後者。これまでも郵便やチラシで販売する商品を告知して誘引し、注文時に別の商品を勧誘した場合、電話勧誘販売として規制を受けていた。改正案は、これに新聞や雑誌、ラジオ放送、テレビ放送、ウェブを加える。

 例えば、「A」という商品のCMを放送して注文時に「B」という商品の勧誘を行った場合、電話勧誘販売として規制を受ける。勧誘において商品の内容や価格、提供期間等で事実と異なる説明をしたり、解約を妨害すれば、「指示」や「業務停止命令」「業務禁止命令」の対象になる(=)。

関連商品提案「総合的に判断」

 ただ、販売商品の告知手法には一定の幅がある。インフォマーシャルでメイン商品と併せて表示したり、「こちらの商品もお勧め」と踏み込んで言及するケースもある。

 店頭においても「A」の購入を検討する顧客に「Bがお勧めですよ」といった売り込みを行うのは、通常の商慣習と言えるものだ。消費者庁は、「例えば背景として映っているだけだとまさか勧誘を受けると思わないかもしれない。一方で密接に関連する商品であれば、言葉で明示的に言及がなくても認識するかもしれない。個別事案の実態を把握して総合的に判断する」(取引対策課)とする。

 商品自体は同じでも、定期購入やまとめ売りを提案するケースもある。消費者庁は、「同一商品かは一つの考慮要素。価格や個数の妥当性を含め判断する。パブコメで質問があれば改めて説明を検討する」(同)とする。

 ただ、政令案は、通販業界に大きな影響を与えるものであるにもかかわらず、特商法改正を議論した検討会(20年2~8月、今年6月に改正法施行)で議論されていない。政令のため国会審議を経ず閣議決定で導入が決まる。消費者庁は、「トラブル事例の増加を把握していた。従前の規制では対処できないものだった」(同)と改正の理由を話すが、なぜ突如浮上したのか。

ファーマフーズ相談が契機か

 「電話注文時の勧誘で不要な商品を購入したり、意図しない定期購入の契約を結ばないようにご注意ください」。政令案公表と同日、国民生活センターは、定期購入トラブルの注意喚起を行った。今年に入り、6月、9月に続く三度目になるものだ。そこであるトラブルが一例として紹介されている。

 「約3カ月前に、義父が『拡大鏡』が今なら通常価格の半額で販売されているという新聞折込広告を見て電話した。その際、『目に良いサプリメントがあるのでサンプルを送る』と言われた。後日、拡大鏡とサプリ1袋が届いたが、明細では拡大鏡が『プレゼント』、サプリが『約3万円』と記載されていた」――。

 この消費者は、「おかしい」と思ったがその後もサプリが届き、電話も混みあってつながらない。改めて明細を確認すると「1年定期」となっていたが「注文した覚えはない」と相談した。

 「内容が具体的なためピンとくる同業者も多いのではないか」(行政関係者)と話すこの相談事例は、ファーマフーズが販売する「博士ルーペ」によるものだという。

 ファーマフーズは昨年7月、ロート製薬との資本業務提携を発表。提携の施策の一つとしてクロスセルを行うとしていた。以降、「博士ルーペ」のテレビCMに併せてロート製薬のアイケアサプリ「ロートV5粒アクトビジョン」の販売を強化している。初年度のサプリ単体の売り上げは11億円超(22年7月期)。急激な伸びだ。広告投資による露出の増加からみると継続購入が望みにくい「博士ルーペ」をフックに、サプリの定期購入による投資回収で収益を確保しているとみられる。

 相談事例を知る前出関係者は、「ルーペはおとりのようなもので、サプリがメイン。いかにサプリを定期で長く買わせるか。ステルスマーケティングに近い」とする。国センの相談事例は、ほかにテレビ通販による漢方薬の定期購入の問題を紹介。これら事例は一例だが、消費者庁は、政令改正もこうしたトラブル増加を受けたものとする。

 政令改正の方針に、ファーマフーズは定期契約の相談があることを認めた上で、「ダメと言われれば守るしかないので変更していく」としている。

                                                                          ◇

 今回の改正に、事業者からは、「本来、解約を希望する顧客に適切に対応していれば問題にならない事例。一部事業者の問題でまじめに取り組む事業者も規制を受ける」、「一切の議論もなく、個別に検討会を行った契約書面の電子化の問題と併せてさらっと影響の大きい規制を導入する行政の手法は問題」との声が聞かれる。

 日本通信販売協会(=JADMA)は政令案を受け、「内容を精査して対応を検討する」としている。





定期トラブル高止まり、不意打ち的な誘引を問題視

<電話勧誘規制強化の背景>


 通販の定期購入に関する相談は、高水準で推移する。国民生活センターが運用する「PIO―NET」に寄せられる相談件数は年間5~6万件ペース。今年度は、10月末時点で3万8328件に上り、例年と同水準で推移する。

 「定期縛りなし」などの文言で訴求することで購入判断におけるストレスを軽減しつつ、注文完了後に表示するクーポン利用などで契約条件を変更する”ダークパターン”が増えている。商品も多くは健康食品や化粧品だが、昨今は電子タバコ、医薬品など広がりをみせる。

 今回、政令改正のきっかけになったのは、テレビや新聞等で商品を紹介しつつ、注文時に別の商品を勧めたり、定期購入を勧誘するなど契約を変更するケースだ。高齢者トラブルが多く、「電話勧誘販売」に該当しないため契約書面の交付やクーリング・オフを義務づけられていないことでトラブルが拡大した。定期購入をめぐる手口の巧妙化は、通販が広く生活に定着する一方、獲得効率やLTVの悪化など、新規プレーヤーの参入による競争激化を反映したものでもある。

 電話勧誘販売はもともと通販の一形態として規制されていた。ただ、90年代に資格取得のための通信教育で高額を請求する「士(さむらい)商法」が横行。企業が独自に設計した意味のない「〇〇士」などを電話勧誘するトラブルが増加したことを受け、96年に独立した取引類型として規制された。

 顧客と継続的な関係構築を念頭に置く通販と、これら商法は異なる。このため規制導入の際、勧誘前1年以内に2回以上の取引のある顧客を対象にした電話勧誘は、規制の適用除外が規定された。

 本来、顧客接点において、自社で取り扱うさまざまな商品を提案したり、特典のある情報を提供するなどアップセルやクロスセルは通常の商慣習といえ問題ない。通販でも広く行われている手法で、解約の受付など適切な顧客対応を行う企業にとって影響は少ないとみられる。だが、強引な手法で定期への誘導を図る手法が横行すれば、今後も規制強化が行われる可能性がある。
 
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