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【ジュンの中嶋取締役執行役員に聞く コロナ禍のEC強化策とOMO戦略㊤】「ECの顧客体験を店舗に近づける」  2年後にEC化率40%が目標

2021年 9月 9日 10:25

 アパレル大手のジュンは、コロナ禍で自社サイトを含めたEC売上高を大きく伸ばしている。EC化率は足もとの30%程度から2年後には40%を計画しており、本格的なOMO戦略とDX化に乗り出している。「リアル店舗と自社ECの顧客体験を近づけることが大事」と語るEC事業統括情報システム室ロジスティクス部の中嶋賢治取締役執行役員(=写真)に、自社ECの強化策やOMO戦略などについて聞いた。     










 ――コロナ禍でEC売上高が伸びている。

 「コロナの影響を長い期間受けていて、昨年は直営店舗の大半が休業を経験した。通販サイトで販売するしかない状況だったので、いかにECチャネルにお客様を誘導するかという部分からスタートした。今年は春先くらいから実店舗も回復してきたが、その間もECチャネルは30%程度の伸び率を維持していて、お客様の購入チャネルとして定着してきたと感じる」

 ――コロナが落ち着いてもEC利用は選択肢に入りそうだ。

 「そう思うが、実店舗とECの顧客体験をどう近づけるかが本質的には大事になる。昨年6月には自社ECにチャット機能を実装し、9人のスタッフが対応に当たっている。実店舗での販売経験が豊富なベテランスタッフを中心に、実店舗と同様にお客様の悩みを解決したり、商品のご提案をしている」

 ――チャットチームのメンバー構成は。

 「専任チームになる。完全リモートの環境で、例えば産休明けの女性スタッフや通勤に時間がかかるメンバーなどを配置し、新しい働き方を提供している」

 ――チャットサービスの役割は。

 「従来のカスタマーセンターはメールを中心にお客様の問い合せに回答するが、チャットチームはオンライン上で接客や提案を行う。顧客体験を店舗に近づけるために、現状は文章と画像で接客しているが、ゆくゆくは動画なども使いながら接客できるようにする。お客様が実店舗で聞きたいことをECでも聞ける環境を整える」

 ――導入の成果は。

 「実店舗では店頭スタッフから毎日上がってくる情報をもとにお客様の困りごとなどを把握しているが、ECでもチャットを通じてお客様が何を探しているか、何に悩んでいるかをチャットチームの日報を見て判断できるようになった。自社ECに必要な項目や改善点が見えてきた」

 ――実店舗の顧客がECで迷う部分は。

 「一番はサイズ感やシルエットのため、自社ECでは身長別のスタッフ着用画像などを掲載している。チャットチームがその画像をお客様に見せて、着丈の雰囲気を確認してもらったりしている」

 「あとは触り心地や重さなども気にされるお客様が多い。実店舗であれば確認できることをECでも伝えられるように、ショップスタッフの着用レビューを新たに始めた。各スタッフが商品のサイズ感や素材感、スタイリングのポイントなどを発信したり、生地の厚みや柔らかさ、伸縮性、透け感、ウエスト周りのサイズ感などを5段階で表示している」

 ――そのほかに工夫したことは。

 「カートに入れるボタンやお気に入り登録ボタンのすぐ近くに『チャットで相談』のボタンを配置することで、チャットを利用してもらいやすくしたり、MAツールを使い、商品詳細ページを見て長い時間とどまっているお客様にはポップアップ画面でサービスを案内している」

 ――アパレル各社は店舗休業中に在庫のEC集約などを進めた。

 「私はロジスティクスも管轄しているので、大号令の中で保管場所を確保して休業中の店舗に在庫を置いたままにならないようにした。その経験もあって、どこに在庫があっても引き当てることができるシステムが大事だと痛感した

 ――コロナ禍での顧客とのコミュニケーションについては。

 「お客様とのコミュニケーションの部分は全社を挙げて取り組んでいて、情報は見える化して共有している。EC部門だけでなく、店舗運営部門の責任者も確認しながらブランドごとの事例を吸収している。これまで実店舗でお客様に訴求してきたことに加え、店舗外での接点作りについてもこの1年くらい力を注いでいる」

 ――SNSがメインになるのか。

 「基本的にはインスタグラムが中心だ。とくにインスタの動画を活用してお客様とのコミュニケーションを深めている。成果があった事例としては、レディースブランドの『ViS(ビス)』で高橋愛さんとのコラボ商品を展開した際、インスタライブや動画プロモーションにも登場してもらい、動画コンテンツはECにも掲載して販売につなげた

 ――コロナ禍で強化した顧客とのコミュニケーション施策はアパレル企業にとって財産になりそうだ。

 「定着させるべきだと思う。販売員も定期的にインスタライブなどを実施するようになり、お客様もそうしたコンテンツを期待されていると思う」

 ――コロナ禍でのコスト配分は。

 「全社的なマーケティング経費のうち、リアルの催事などに使っていた部分をウェブに振り分けている。ウェブ上でお客様との接点を増やし、お客様といかにつながり続けるかが大切になる」

 ――コロナ禍でのECモール活用は。

 「自社ECと『ゾゾタウン』『楽天ファッション』の3サイトでEC売り上げのかなりの金額を占めている。楽天さんは大きなポイント経済圏があるし、ゾゾさんも『PayPayモール』を経由した売り上げが増えている。ポイントを使いたいニーズは確実にあり、当社商品が選ばれる機会になっている」

 ――EC化率は。

 「これまでEC化率は24%くらいだったが、直近では30%を超えている。今後、これまで以上に実店舗を積極的に増やしていくというよりは、オムニチャネル化、OMO戦略をいかに推進するかが全社的な方向性で、2年後にEC化率40%を目指している」

 ――自社ECの割合も高まる見通しか。

 「3年後の姿になるが、EC売上高の半分を自社ECで確保したい」(つづく)
 
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