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OMO施策の充実図る【有力企業の通販戦略 JR東日本商事】 顧客に自由な使い分けを提供

2023年 1月19日 13:00

 前号に引き続き、JR東日本商事が手がける通販事業の戦略について見ていく。同社では、エキナカなどで運営する直営店舗とECを「トレニアート」の屋号で展開。今期からは両チャネルについて、顧客一人ひとりが自身に合った買い方で自由に利活用できるようなサービス設計の強化に本格的に乗り出している。

 同社の通販事業が年々拡大する中でひとつの課題となっているのが、実店舗とECの両方のチャネルを顧客に有効活用してもらうための取り組みだ。

 同社の場合、基本的には鉄道に関するデザインをしっかりと表現したグッズを望む顧客がベースとなっている。品ぞろえに関しては、リアルとネットそれぞれの利用シーンを意識した住み分けを徐々に始めており、顧客が場面に応じて買いやすいチャネルを選べるような設計を心がけていた。

 ところが今期にJR東日本のポイント制度である「JRE POINT」会員の属性データを基に、買い回り状況を分析したところ、ECと実店舗の両方を利用している顧客は全体の3%程度しかいなかったという。「過去に実店舗でECのチラシを配ったり、両方(のチャネル)で商品を購入すると特典が付くような送客施策も行ったが、まだそこまでの実績は得られなかった」(コンシューマ商品本部の笹川俊成取締役本部長)と説明。

 背景には「トレニアート」という両チャネルの共通店舗ブランド名がまだあまり認知されていないまま利用されていることや、片方のチャネルを利用した顧客に対してもう一方のチャネルの売り場を伝えるアナウンスの手法に課題があるのではないかと考えた。

 そこで、実店舗とECの橋渡し役としてSNSを使い、「トレニアート」という一つのブランドであることを表現する作業を今期から本格的に開始している。例えば、鉄道博物館にある実店舗の利用者に対していきなりECを案内するのではなく、まず、公式SNSがあることを紹介。フォローに対する特典企画を通じて集まった顧客に対して、実店舗とECでは異なる取り扱い商品やキャンペーンを行っていることを告知し、それぞれ使い分けるメリットがあることを伝えていった。

 SNSに関しては「ツイッター」と「インスタグラム」を運用しており、取り組み開始からまだ間もないものの、同企画を通じたフォローワー数は着実に伸長。実店舗とECの両チャネルを効率的に訴求できる場として活用している。

エキナカ拠点の活用が進む

 そのほかにOMO関連で前進があったのが、JR横浜駅構内に開設された、ショールームとカフェが一緒になったOMO型の複合店「JRE MALL Cafe」だ。JR東日本が主導しているもので、運営はJR東日本商事が受託。来店者が気に入った展示商品をQRコードからECで購入できるようになっており、現在では一部の商品について店内にも在庫を配置。EC決済後にその場で商品を受け渡すこともできるようになった。

 一般的な顧客行動の流れとしては、商品を認知して、他の商品と比較しながら選定して、購買するというステップがある。「それぞれについてリアルとデジタルの両方を準備して顧客一人ひとりの生活シーンに合わせて自由に使い分けができるのがベスト」(同)と語り、同OMO店舗についてはその役割を果たすことができる拠点として捉えている。

 これまで、ネットとリアルの連動というと一方への送客が基本で、どちらかが「主」となり、残り片方は「従」になりがちだった。しかし、同OMO店舗では、デジタルとリアルがフラットな関係となっている。まだ一部商品だけではあるものの、購入までの各場面で顧客が自分に合ったチャネルを自由に選べるようになったことは大きな前進となるようだ。

 また、同店舗以外にもショーケース機能として「JRE MALL Car」がある。JR東日本において以前より山手線内を中心に設置されたもので、中の商品の詰め替えなどはJR東日本商事が行うこともある。現在の設置箇所は40駅程度まで拡大されており、こちらもデジタルとリアルの融合という観点でさらなる活用拡大が見込まれる。

 今後については引き続き、EC単独の売り上げを上げるというよりも、鉄道グッズや地産品の市場拡大を図る一つの販路として通販事業を運営することを主眼に置いていく。「実店舗や卸も含め、それぞれの商品市場を拡大するためのひとつのツールとして利用することがECの強みを一番発揮できる」(同)と説明。リアルとデジタルの融合は今後も重点課題として取り組んでいく。(おわり)


 
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