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【消費者安全法 381 ジョーカー規制の行方②】

2021年 3月18日 12:45

健康被害公表後の宿題

 健康被害から財産被害まで幅広く適用が可能。社名公表により強い抑止力と制裁力を持つ消費者安全法38条1項(=381)。このジョーカーが、健康被害で最初に切られたのが2019年9月の「ケトジェンヌ」のケースだ。 
    
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 ケトジェンヌは、e.Cycle(現在の社名はTOLUTO)が販売している健康食品だ。19年3月からネットなどで発売を開始した。

 その後、19年4月から8月までに消費者庁の事故情報データバンクに89件の下痢などの健康被害が登録された(グラフ)。これを理由に同年9月6日、381に基づき、健康被害の発生が社名と製品名と共に、公表されている。

 なぜか。管轄の消費者安全課は「事故情報の中で、短期間かつ重篤だったため」と話す。

 381での初の社名公表に業界はざわつく。健康食品の摂取による体調不良の申し出は、微妙な問題。原因を特定せず、公表すれば、風評被害に直結するからだ。カイワレ大根のケースがその典型例だ。

 折りしも、食品衛生法に「指定成分含有食品」というカテゴリーを新設し、特別の注意を要する成分を管理。健康被害情報の届出を義務化することが決まっていた。これと連動した規制強化と身構えた訳だ。

 業界を落ち着かせたのは消費者庁側の説明だ。日本通信販売協会が開催した19年10月の「サプリ塾」で消費者安全課の課長補佐は、健全なビジネスを展開する事業者へ影響を及ぼすものではないことを強調し、公表の基準などにも言及した。この事が業界紙等でも報道され、「体調不良を理由に、原因を究明でせずにガンガン発動される」(大手企業)との懸念は薄まったという。

 消費者安全課に現在の公表基準を確認すると「被害状況を勘案。同種の製品との比較もポイント」とする。実際はケトジェンヌのケース以降、健康被害で381を適用した事例はまだない。ただ「危険性が高く重篤なものについては出す」と話す。

 一方でケトジェンヌのケースには別の要因も取りざたされた。消費者庁が381で公表後、当該企業に対し、取引や表示の法令で処分を連発したからだ。

 取引対策課は19年12月に、化粧品の定期購入が分かりにくいことなどを理由に特定商取引法違反で、TOLUTOと同社の中谷裕一前代表取締役社長に対し、3カ月の業務停止などを命じた。

 表示対策課は20年3月にTOLUTOが販売する「ケトジェンヌ」の広告が虚偽誇大だったとして景品表示法違反で、再発防止などを命令した。問題となった広告の表示期間は19年8月2日だけで、異例とも取れる処分だった。

 19年10月には、千葉の消費者団体が、TOLUTOが販売していた健康食品「うらら酵素」の解約条件や表示について、申し入れを行い、同社は11月に製品の注文受付を中止したことなどを回答している。

 半年間に消安法で注意喚起、特商法と景表法で処分。3連発は過去に例がなく、企業姿勢に疑念を抱かざるを得ない。その先兵として、381を用い、結果的に消費者被害が未然防止されたのであれば、強力なジョーカーとして、価値があったとも言えよう。

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 とは言え、381で公表した健康被害の実態はフォローし、究明すべきであろう。

 この件について、消費者安全課は「事故情報があれば公表するということ。(原因の特定は)会社側が究明しているかもしれないが、特定する立場にない」とする。

 風評被害が起こる可能性には「行政処分ではない。反論があれば、企業が出せるし、ケトジェンヌではそうしたコメントをしていた」と話す。

 現状、ケトジェンヌの摂取と健康被害の具体的な相関関係は明らかではない。藪の中だ。

 ケトジェンヌは、現在でもネットで購入可能だ。仮にまた健康被害が起こったらどうするのか。

 原因特定は、「いたちごっこ」を防ぐ意味でも必要ではないか。381発動後の宿題であろう。(つづく)


 
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