【ZOZOの澤田宏太郎社長が語る】 ゾゾの強さと今後の成長戦略 アパレル業界のインフラ目指す
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――社長に就任して間もなく4年になる。ほとんどコロナ禍での舵取りとなった。
「体感としては、自分の神経細胞が会社の隅々まで行き渡るのに3年くらいかかった。社長就任時の経営体制の変化もあり、変えなければいけないことはたくさんあった。一方でゾゾとして変えてはいけない部分もあった。コロナがあったことで、それらがすごくクリアになった。通常時とは異なる環境下では物事を判断する基準やタイミングなどが複雑化するように見えると思うが、私の中では非常にシンプルだった」
――例えば、変えてはいけない部分とは。
「当社がターゲットとするお客様への考え方もその一例だ。コロナ禍でEC利用は進んだものの、外出機会が減り、ファッション商材の需要はどう動くのか分からなかったときも、ファッションコンシャス度が高く、古くから『ゾゾタウン』を使ってくれていたお客様の需要は衰えなかった」
「どんな企業でもそうだと思うが、コアなファンの方々を大切にしながら、新しいユーザーを獲得していかなければいけない。当社は新規ユーザーの開拓に向けてより幅広い層にアプローチしている最中だ。これまでのDNAを大事にしつつターゲットの幅を広げていく中で分かってきたこととして、顧客データを見る限り、古くからのファンを大切にしていれば、自然とライトユーザーの方もついてきてくれることがはっきりした」
――コロナ禍はゾゾにとってマイナスの面はほとんどなかった。
「コロナの最初の頃に倉庫がひっ迫しかけたことはあったが、結果、さらなる成長につながっていったと思う。コロナ禍で初めて『ゾゾタウン』を使ったユーザーが定着してくれたり、ブランドさんのECチャネルに対する意識もだいぶ変わった。当社ではラグジュアリーブランドやコスメを強化し始めたところだったので、誘致がスムーズにいった部分もある」
――足もとでは消費者のリアル回帰の動きが顕著で、ECの伸び率が鈍化している企業もある。
「そこは一概には言えない部分だと思う。当社としては、コロナ禍で多くの新規ユーザーに『ゾゾタウン』を利用してもらったが、単純に『便利だね』とか、『ECで買うのもありだね』と思ってくれた人が多かったのだと思う」
「ファーストコンタクトの際にどれだけお客様の心を動かすことができたかという点で、当社は優位性があったと思う。最初こそ、『しょうがないから、ここで買おう』という人が多かったと思うが、当社が長い時間をかけて改善し続けてきたサイトのUI・UXがすごく生きた」
――ブランド側にセールやクーポン施策を敬遠する動きもある。
「実際にセールの値引き率は下がってきているし、低価格帯の商品を作らなくなってきていると感じている。そうした動きもあって、『ゾゾタウン』の商品単価、客単価は上昇傾向にある。お陰様で、『ゾゾタウン』は商品単価が上がってもお客様は離れていない。そこは、『ゾゾタウン』内に少し手の届きやすい代替品もあるという安心感も大きいと思う」
――前期はアクティブ会員が1100万人、商品取扱高が5000億円を超えた。順調に成長してきた理由をどう分析している。
「マーケティングについてはかなり綿密に取り組んでいる。数値を見てトライ&エラーを実施するスピード感などは他のネット企業と比べても自信を持っている。マーケティングの仕組みは進化も速いが、追いつけるように努力していて、そうした部分が成長を続ける一番の原動力になっている」
「また、この数年は倉庫の効率化をかなり進めてきた。ロボティクス化などの面もあるが、例えば商品梱包時に適正サイズの資材を容易に選択できる仕組みを導入したり、庫内動線を変更したりと、地道な努力の積み重ねで効率化を図り、そこで浮いたコストをプロモーション費用に充填できている。そのプロモーションも綿密なマーケティングによって効率的な運用ができているので、新規ユーザーの獲得で成果が出るなど、好循環が続いている」
――アルバイトを集めるのも大変だ。
「アルバイトの確保は年々難しくなっている中で、一定の人数を雇用できているのは強みだ。それなりの時給を設定しているが、アルバイトのスタッフにとっても働きやすい環境だと感じてもらえているのだと思う」
「コロナ禍で飲食業などのアルバイトを辞めざるを得なかった方が、ECの好調で増えた物流の仕事に流れるケースが多かったようだ。ひと昔前の倉庫作業は暗いイメージがあると思うが、今のEC企業の倉庫は明るいし、若い方も多く、アルバイトの職種として物流の仕事は評価が高いと聞いている。当社の倉庫も若い方が多く、服装も自由で働きやすい環境が整っていると思う。年度末の業績ボーナスを支給していることなどもあって人員は確保できている」
――マーケティングの精度向上や物流効率化も進展しているとなると、よほどのことがなければ大きく業績を落とす心配はなさそうだ。
「もちろん、引き続き成長していくために努力する。一方でだいぶファッションECのシェア率は高まってきているので、今後はこれまで以上の綿密さが求められる。例えば、若年層によりフォーカスしたプロモーションを実施したり、お子さんのいるパパママユーザーの需要を取り込めるようにリーズナブルな服を買ってもらいやすくするとか、キッズものと一緒に買うとお得になるといった施策を社内では議論していて、これまで以上に細かいターゲティングを行っていく」
――数年前からファッションの販売にとどまらない戦略を進めている。
「ECという意味では大きな違いを出すのは難しく、どこでも同じようなことができるようになっているので、販売だけでなく上流に向かっていくことで差別化を図るのが、当社の大きな方向性となる」
――具体的には。
「超パーソナルスタイリングサービスの『niaulab(似合うラボ)by ZOZO』や、ファッションブランドの生産支援プラットフォーム『Made by ZOZO(メイドバイゾゾ)』、ブランド実店舗の売り上げを支援するOMOプラットフォーム『ZOZOMO(ゾゾモ)』などがそうで、事業領域を広げている」
「例えば、『似合うラボ』ではAIとプロのスタイリストがお客様の『似合う』を見つけるお手伝いをしている。ファッションを楽しんでもらうことを一番の目的としたサービスで、しっかりとそのお手伝いができれば自然と購買にもつながると見ている」
――アクティブ会員数1500万人、商品取扱高8000億円を次の目標に掲げ、10代後半や40~50代の取り込みを強化する。
「両世代はまだまだポテンシャルがあると思う。加えて、8000億円を目指すには、今あるニーズを満たすだけでなく、需要を作っていかないといけない。それが『似合う』にこだわる理由でもある。周りの人から自分の服装を褒められたり、似合っていると言われたり、ちょっとした一言をもらうだけで気分が上がるので、『似合う』を追求していく」
「少子化もあってアパレルマーケットの縮小傾向は避けられない。日本国内でどう戦うかを考えると、需要を作ることがアパレル業界全体にとってもプラスになる」
――受注生産型の「メイドバイゾゾ」にも本腰を入れる。
「まだ最初の半歩を踏み出したくらいだ。ブランドさんが当社と組んで受注生産型の商品を展開するメリットは、『ゾゾタウン』が1100万人以上のアクティブユーザーを抱えていることが大きい。『メイドバイゾゾ』は『ゾゾタウン』上で1着から注文を受けることができ、注文から発送まで最短10日のリードタイムで生産する、ファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す。『ゾゾタウン』を運営する当社が生産支援に取り組むことで、サプライチェーン全体をアップデートしていきたい」
――「メイドバイゾゾ」は規模を追求するのか。
「追求していくし、それに耐えられるように提携工場のDX化を進めている。アパレルの工場はアナログな部分がまだ残っていて、改善できる余地が大きい。最終的な縫製の部分は人の手が欠かせないが、それまでの工程はデジタル化できる部分がある。『メイドバイゾゾ』のビジネスは、まずは利益ベースで2ケタ億円を目指す。小売りと比べて利益率は低くなるので、規模の追求と並行してDX化が不可欠だ」
――コロナ後のリアルとECの役割はどうなると見ている。
「消費者心理からすると、恐らく『買う』という機能はどこでもよくて、『買う』以外の部分でどれだけお客様に寄せられるかの勝負になると思う。すごく便利とか、すごく楽しいとか、エンターテインメントを追求していかないといけない」
「『似合うラボ』はユーザーの気持ちを高めるという意味で非常に試し甲斐のあるお店だと思う。アドバイスを受けられて、自分の新たな一面を見つけることができる。これはひとつのアパレル店舗の未来の姿だと感じている。今は無料でサービスを提供していて、実験的店舗という位置づけなので、ビジネスになるかはこれからだが、ひとつの選択肢を提示しているつもりだ。ビジネスとして成り立たせるには単純に対価を頂くか、省人化するかのどちらかで、その両方かもしれないが、今の感触では『お金を支払ってもいいレベルのサービス』と感じているお客様が大半だ」
――物流業界の2024年問題についてゾゾができることは。
「当社が音頭をとって共同配送のようなものに取り組むのもひとつの手だ。例えば、ブランドさんから商品を預かるときに、倉庫で商品の到着を待つのではなく、当社がトラックを走らせて複数ブランドさんの商品をまとめて集荷してくれば、みんながハッピーになる。お客様への配送については、通販サイトで置き配を選びやすくするなどの工夫をして配送会社さんの負担を減らすことはできると思う」
――澤田社長が今一番力を注いでいることは。
「私としては買う前の『似合う』の部分にフォーカスしている。『似合う』を導き出すAIのアルゴリズムなどには非常に興味がある。どれだけオリジナリティのある技術を開発できるか、センサーを張り巡らしている。『ChatGPT』の登場がモノの売り方を変える可能性がある中で、当社独自のデータや知見、ノウハウを生かしながらECの上流を押さえていきたい。オリジナリティのある技術を完成させることができれば、海外のマーケットも技術提供を軸にビジネスが広がると思う」